ホームバイアスという障害
先日書いた「通貨分散」というブログの中にも、日本人の一般的な投資ポートフォリオ中の日本株式や日本債券等の日本資産比率の高さの中にも存在している、一種の落とし穴があります。
それが、今回の題目であるホームバイアスです。
投資のアセットアロケーションを考える際には、誰でも知らず知らずのうちに、自国資産の投資割合を非合理に多く設定しがちな傾向があります。それがホームバイアスであり、その原因は、いわゆる知らないものを無条件に恐怖し、拒否しがちな人間一般の心理からきているものだと思います。
「いやいや、日本の株式や日本の国債のほうが、外国資産よりもその内容がよくわかっているから、そのようなビークルに投資すべきであって、よくわからないものに投資すべきではないんだ。」
といわれると、はい、その通りですというほか無いのですが、果たしてホームバイアスにかかっている人は、本当にホームのことをよくわかっているのでしょうか?
日本株式(あるいは持ち株)のPERは今いくらでしょうか?ROEは?日本国の負債総額は?日本国の経済成長率は?
これらに答えられるしっかりした方は、ぜひちょっとだけ踏み出して、その数値を他国と比べて見てください。海外投資をする意味が発見できます。(それで、ホームバイアス解消です。)
このような質問に答えられない方、「いや、おれは日本製品の良さを肌身で感じられるからいいんだ。」という方、商品の良さと株式のリターンは必ずしも比例しません。世界一の精緻な商品と技術力を誇る日本の株式の長期リターンが世界各国対比でとてつもなく悪いのも、日本株式のROEがとてつもなく低いのも、このことを如実に物語っています。
また日本は、世界一に近い経済成長率の低さをも誇っているということをご存知でしょうか?バフェットの言う、株式は毎年会社が生成する利益を擬似配当とみなした擬似債券に等しいと考えれば、日本は株式のこの擬似配当部分の将来の成長ののりしろが世界でもっとも小さい国のひとつなのです。うーん、何で日本株式のPERは世界のその他の国よりも高いんでしょうか?不思議です。
日本のことがわかればわかるほど、日本に集中投資する資産ポートフォリオは不安になります。
というわけで、資産ポートフォリオ中の日本資産が多い方は、自身がホームバイアスに陥っていないかどうか、日本資産に集中するその理由は合理的かどうかを一度自問してみる価値はあると思います。
ちなみに、ホームバイアスに陥りがちなのは、日本人だけでなく世界共通です。米国民も1990年代後半のUS大型株相場を経験し、「S&P500やNYダウ以上にすばらしい投資ビークルはない」とばかりに自国株式に集中投資してその後のパフォーマンス不振を食らい、またITバブルでNasdaqに集中投資してその崩壊をもまともに食らい、不遇の2000年代を送っています。なので、米国資金はそれまでの極端なホームバイアスの反動か、ここのところ自国株式から世界株式への流れがずっと続いているようです。
ホームバイアスは万国共通と思うと、すこしは安心しますね。
最後に、ホームバイアス回避のために、株価指数を作っている、例えばモルガンスタンレーといった会社に頼るのも、個人的にはあまり良い方法ではないと思います。すなわち、MSCI世界株式指数の比率に応じて世界に分散投資すればいいだろうというのも、ホームバイアスとは対極ではありますが、一種の思考停止だろうと思います。
なぜなら、精緻な検証をしたわけではありませんが、おそらく間違いなく、日本のバブル絶頂の時代以降しばらくは、世界株式指数に占める日本株式の比率は最高だったはずです。また1990年代後半の米国大型株絶好調の時代の存在も、その後の指数における米国株比率の上昇とその後の指数の相対的パフォーマンス悪化に色濃く影響を与えているのではないかと思います。つまり、時価総額比率の指数は客観的ではありますが、いわゆる市場の後追いで、まさに天井買いの底値売りを地で行くことになりかねないやり方でもあるわけです。
このような時価総額の指数に対するアンチテーゼがWisdomTreeのやっていることやJeremy Siegelの主張していることの意味でもあります。
何事も安易な解決法には落とし穴があるということで、ここから先は「正解の無い世界へようこそ」ということになると思います。進むも進まぬも、自己責任でご自由にということです。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント