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2007年5月14日 (月)

名著「株式投資の未来」の罠

表題の書籍は、個人的にも間違いなく名著であると考えており、当ブログの左サイドバーに載せていることでお分かりの通りです。

この書籍の主張の1つは「成長の罠」であり、「成長する株式が必ずしも高リターンをたたき出すわけではない」という主張で、これも至極もっともな主張です。

この主張は、新興国投資の部分でも述べられており、強力な成長国でありながらパフォーマンスが最悪だった例として、中国株を挙げています。実際、この書籍中で、1992年に$1000だった中国株が2003年に$320にまで落ちてしまっている例を挙げています。

このセンセーショナルな例にも、おそらくなんら誤りはないものと思います。成長する国だから、その将来株式リターンが高くなるわけでは必ずしもない。だから、その成長を株式が既に織り込み済みであるのか、それとも織り込みが不十分でファンダメンタルの観点で魅力的な超過リターンの可能性が見込めるのかという観点の判断が必要です。この書籍はすばらしく正当なことを述べていると思います。

唯一残念なのは、この真実をよりセンセーショナルに見せるためだろうと思いますが、中国本土株式市場の例を挙げているところです。これまで当ブログで何度も述べています通り、中国本土市場は特殊な市場です。その構造上、今の中国A株のように、ファンダメンタルからかけ離れて上にも下にも果てしなく行き過ぎる宿命を持った市場です。このようなセンセーショナルな例を見ることで、この書籍を読んだ多くの方が、新興国市場は近寄るべきでない理不尽な市場であると誤解してしまいかねないことです。

実際、このブログの世界においても、この名著を引き合いに出して、新興国の投資に警鐘を鳴らし、あるいは自身新興国への投資はしないと述べられている方々があちこちに見つかります。

「成長する国の株式リターンが必ずしも大きくなるとは限らない。」

この正しい主張の後に来るべき理屈は

「だから、そのバリュー(割高/割安)等をきちんと把握して投資判断すべきだ。」

であって、

「だから、新興国への投資はできるだけ避けるべきだ。」

につながるわけではありません。

実際、上記書籍が取り上げた期間において、中国本土株ではなく、香港ハンセン指数に投資していれば、軽く2倍以上に増えていました。つまり、合理的に価格形成された市場であれば、その成長は将来リターンとして受け取れる可能性が高いのです。

新興国は、その市場がきちんと開放され、他の先進国市場と裁定が働いている正常な市場の場合、新興国ディスカウントになっていることが多く、その新興国の超過リスクに見合う超過リターン期待値が込められた価格形成になっていることが論理的に自然であり、実際そのような状態があちこちで見つかります。

それにもかかわらず、表題の名著を読んで、「新興国市場は成長の罠にかかっており投資するに値する市場ではない」といった反応で、そこにあるかもしれない新興国ディスカウントをはなっから見逃すのは、あまりにもったいないと思います。

投資のスタンスは人それぞれで、別に全ての人が新興国に投資すべきだとかは全然考えていないのですが、毎日何千人、何万人が見に来るような著名なブログで、表題のような書籍や識者の権威とともに、新興国投資への警鐘を鳴らされると、その影響力は結構計り知れないものと思います。

今の時代、米国の会社等においても、国内市場では株主が要求するROEが出せずに、目の色を変えて新興国市場に取り組んでいたりします。このような時代において、識者も含めた、十把一絡げの「新興国株式投資は危険」といった方向の警鐘は、かえって害が大きいのではないでしょうか。

以前、ご紹介しました「日本経済のリスク・プレミアム」の書籍では、近年の日本株式市場のファンダメンタルリターンはとてつもなく低く、地を這っていることがわかります。そして、日本の株式市場の実際のリターンは超長期で、ファンダメンタルリターンにきれいに収束していることも…

そのような株式市場しか持ち合わせていない国の株式は、考えようによっては最も危険であることも有り得ます。ファンダメンタルリターンがもたらすアップサイドが世界でもっとも見込めない国であるとすれば。

国は成長するに越したことはないのです。企業の売上が毎年増えていくに越したことはないように。大切なのは、それが織り込まれすぎて、高成長なのに株価が割高状態になっていないかどうかを確認する必要があることです。間違っても、成長するかしないかはリターンに関係ないということではありません。日本のように、成長力が世界で飛びぬけて低いのにPERは高い、そのほうがずっと危ないと思います。

「天は自らを助くる者を助く」

一例をもって全てを切り捨ててしまっては、そこにあるかもしれないチャンスを見つけることはもはや不可能になります。それを捨てるのもひとつの立派な投資判断ではありますが、私は、後に続く方々に、そこに見るべきチャンスがあるかもしれませんよ、投資を先進国に限ることは何かのリスクを回避しているかもしれませんが、別のリスクをテイクしていることになっているかもしれませんよ、という逆の警鐘を鳴らしたいと思います。

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コメント

毎日参考にさせてもらってます。
広瀬さんと堀古さんは今年初めの楽天証券講演会まで言って講演聴いてきました。
広瀬さんや堀古さんに少しでも近づこうと努力していますが遠すぎる(゚Д゚)

東証が海外ETFの上場を検討しているようですが、恐らく流動性が問題になると予想しています。
近視眼的な観点でETFの普及に熱心ではない証券業界は、今まさに株価の低迷という懲罰を受けているのではないでしょうか?
個人的に楽天証券の試みを応援しています。


投稿: 猫戦車 | 2007年5月16日 (水) 00時44分

猫戦車さん、

当ブログにお越しいただき、コメントまでいただいてありがとうございます。
当ブログが何らかのご参考になれば幸いです。

海外ETFについては、やはり証券業界、銀行業界、ひいては郵便局にいたるまで、彼らのドル箱商品を失いかねない大きなインパクトを持っているのだと思います。だからこそ、ここになかなか大きな風穴が開かないのだと思っています。
楽天証券はそこに風穴を開けてくれようとしている、業界の風雲児のようにも見えます。なので、私も楽天証券を最大限応援していこうと思っています。

猫戦車さんのブログも今度じっくり拝見させていただきます。

それでは、今後ともよろしくお願いします。

投稿: VMax | 2007年5月16日 (水) 01時50分

正にまっとうなご意見です。

おっしゃる通り、この本は非常に良い本ですが、「成長の罠」の部分が投資に変な影響を与えている部分もありますね。

大事なことはPEGでとらえることだと思います(成長性を正確に予測するのは難しいですが・・・)

投稿: レバレッジ君 | 2008年4月26日 (土) 22時55分

レバレッジ君さん、コメントありがとうございます。

かなり古い記事ではありますが、事の本質に変化ないと思っており、今も私はこういうスタンスで、先進国だけでなく新興国にも投資し続けています。

確かに成長性を正確に予測するのは難しいですね。

それでは、今後ともよろしくお願いします。

投稿: VMax | 2008年4月27日 (日) 08時47分

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