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2007年5月24日 (木)

ハイウォーターマーク費用のコストと意味

以前、中国A株の話題のときに、ハイウォーターマーク費用という言葉を使いましたが、今日はこの話題です。

この言葉の意味を念のためご説明すると、いわゆる資産が新高値を取ったときに、以前の高値との差額の一定パーセントを運用成果に対する報酬として運用者が徴収するタイプの費用のことを指します。

以前の話題の際には、日興の中国A株ファンドにこの費用が含まれていました。実質、運用によるリターンの15..75%は日興にもっていかれる勘定になります。

この費用、投資信託でプラスのリターンに対して適用されることについて、納得できますでしょうか?

このペイオフは、いわゆるコールオプションの買いポジションのペイオフにほぼ等しいと思われます。要は、運用者は、相場が上がればその一部%を貰え、仮に相場が下がっても何の支払いの必要がないのです。

う、うらやましい・・・というのが、普通の反応だと思います。バブルでボラティリティの高くなった市場で、下がったときのリスクゼロで上がったときだけその上昇の一部をいただけるなんて。まさにゼロリスクハイリターンのポジションです。

通常、こんな虫のいいポジションがただで手に入ることは、合理的なマーケットではありえないことです。このポジションに大きな価値があるということはすなわち、このポジションを得るためには、通常高いプレミアムを支払う必要があるのです。

さて、ここで中国A株ファンドを運用している日興は、投資信託を買って実際に中国A株のリスクを取っているお客に対し、このコールオプションのプレミアムを支払っているでしょうか?答えは当然、Noとなります。

この中国A株ファンドのお客は、運用者である日興に、コールオプションの買いポジションをただで献上しているのです。

フェアな市場においては、リスクを取った者だけがそのリスクポジションから得られるリターンを手にすることができます。相場変動に関して、フリーランチの機会は普通、存在しないはずなのです。では、なぜ日興はフリーランチをエンジョイすることができるのでしょうか?

ここで、より一般的にこのハイウォーターマーク費用が利用されているヘッジファンドのケースを考えて見ましょう。

もし、あなたがヘッジファンドを運用できるほどの能力があって、お金さえあれば、市場のゆがみから無リスクでリターンを生成することができるとします。でも、元手がないのでポジションを立てることができず、せっかくの能力を生かすことができません。もし、このとき、あなたの能力を知る、となりの金持ちのAさんが10億円をポンとあなたに渡し、「キミの能力をフルに生かして、無リスクで利益を得る運用をしてほしい。もしリターンを得ることができたら、そのキミの類まれなる能力と成果の見返りとして、そのリターンの20%をキミに支払うこととしよう。」と言ったとしたらどうでしょう。まさしくこれがヘッジファンドの始まりだと思います。

そうです。ハイウォーターマークの成功報酬は元々、類まれなる運用能力等をもつ特異な才能の持ち主と、そのような非凡な運用能力は持たないが有利な運用を求めるお金持ちの、相対取引条件だったはずなのです。

すなわち、通常の投資信託でハイウォーターマークの成功報酬が問題なのは、特定市場のロングポジションを持つことは、別に特異な能力がなくても、世の中のだれもができることだからです。

サルでもできる仕事に対して、厚かましくもハイウォーターマークの費用を請求する方もする方ですし、そんなサル仕事に成功報酬を支払う方も支払う方です。まともな神経を持つ運用者の提供するビークルであれば、例えばベンチマークを上回った分に対してのみハイウォーターマーク費用を請求する等の、生成した付加価値に対してだけ成功報酬を請求する、筋の通ったフィー体系になっているものです。

ただし、おそらく日興としての言い分としては「中国A株に直接投資できる権利を中国政府から獲得するには、多大な苦労と労力があったのだ。その仕事が、類まれなる仕事だったのだ。」というに違いありません。その言い分が正当かどうかは、Matter of Opinionだと思いますが、もしその主張が正しかったとしても、それでも、ゼロリスクハイリターンのポジション獲得を正当化することはできないと思います。なぜなら、その成果は過去の1時点の成果なので市場連動の成果ではなく、固定費用換算できるタイプの労力や成果であるわけですから、市場に関するオプションポジションとして市場連動費用の形でお客に請求すべきものではないと考えるからです。

ちなみに、コールオプションとしてのハイウォーターマーク費用をオプション評価式でざっと計算してみました。

スタート時運用額100、運用開始時の運用額を超えた部分に対して20%のハイウォーターマーク成功報酬、無リスク金利3%、ボラティリティ40%という仮定で計算したら、そのオプションプレミアムは、

1年運用期間の場合:3.43

3年運用期間の場合:6.09

となりました。すなわち、この例でもし3年運用の場合であれば、経済的には、ファンド購入時の支払い手数料のほかに、追加で6.09%の手数料を払っているに等しいことになります。(ただし、上記計算は簡略化された仮定に基づく計算ですので、厳密性に欠けるおそれがあります。この点、ご注意ください。)

これで、まちがいなく元々ハイリスクハイリターンビークルであったものは、ハイリスクミドルリターンやハイリスクローリターンビークルに近くなってしまいます。ハイウォーターマーク費用を見つけたら、そのような成功報酬を払うに足る、類まれなる付加価値を提供してくれる相手かどうか、また、類まれなる付加価値に対してのみ支払うストラクチャーになっているかどうかを確認した方がよいと思います。取ったリスクに見合わない低リターンのビークルにつかまっていては、フィナンシャルフリーダムはより遠くなるばかりですから。

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コメント

報酬におけるハイウォーターマーク
とグローバックは、そもそもは投資家
保護のために生まれました。

ハイウォーターマークが採用されてい
る場合で、投資家保護につながるのは、
ベンチマークを上回っている際に超過
リターンから20%をとるような場合
です。

適切でないベンチマークを設定すると、
あとは基準価額がクロスするたびに
超過リターン分の20%を何度でも
とられます。この何度でも取るのを
防止するために、ハイウォーターマーク
が機能します。なにごとも条件次第です。

投稿: 名無しさん@お金いっぱい | 2007年5月25日 (金) 07時19分

名無しさん、コメントありがとうございます。
そうですね。よく切れるはさみは凶器にもなります。道具には白黒はなくて、使う側の態度が重要ということであれば、まさにその通りだと思います。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: VMax | 2007年5月25日 (金) 08時08分

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トラックバック失礼します。今回はグローバルリートの最近の状況について記事を書いてみました。もしお時間がありましたら見に来て下さい。よろしくお願いします。 [続きを読む]

受信: 2007年5月25日 (金) 02時31分

» ハイ・ウォータ・マーク式の高い手数料 [乙川乙彦の投資日記]
一部のファンドに見られるハイ・ウォータ・マーク(HWM)式の高い手数料(成功報酬)にいきどおる人が多いことは当然でしょう。 http://max999.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_bfdd.html 乙も基本的に同じように考えます。 しかし、それで完全に割り切れるかとい..... [続きを読む]

受信: 2007年6月19日 (火) 04時21分

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