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2007年6月14日 (木)

A tip for TIP

前々回に、楽天証券で新しく取り扱いがアナウンスされたTIP(インフレ連動債ETF)について、ちょっと解説しました。

今日はその続編として、数値例を用いて、TIPSという債券資産とこのTIPというETFの特徴をお示ししようと思います。

なお、以降の例はすべて簡略化し、デフォルメした例を提示します。当然、実際はもっと複雑な構造ではありますが、その本質を知るには枝葉末節はかえって邪魔になりますので、簡略化した数値例で示したいと思います。

まず最初に、原資産であるTIPS(米国インフレ連動債)のしくみを簡単に例を挙げて説明します。

5年物の通常の米国国債(Treasury)を考えます。今、この5年物のTreasuryの複利利回りが年率5%であるとします。このとき米国政府が、クーポンレート2%の5年物のインフレ連動債を発行し、市場で償還額面と同じ100で取引が開始されたとします。

このとき、ざっくり表現すると、市場で、これから将来5年間のインフレ率をヘッジするために妥当なプレミアムとしての利回りスプレッドは年率で元本の約3%だと評価しているに等しいことになります。

すなわち、これはデリバティブ取引の一種であるスワップ取引の一形態とも考えられます。インフレ連動債の購入者は、Treasuryを買わずにインフレ連動債を買うことで、年率で3%のコストを米国政府に支払う代わりに、CPI(消費者物価指数)に応じた実際のインフレ率を受け取るわけです。したがって、ここでもざっくり言うと、3%のインフレヘッジプレミアムを支払って、もし実際のインフレ率が5%であれば、2%+5%=7%の年率投資利回りとなり、Treasuryよりも2%だけ投資利回りが上がりますし、もし実際のインフレ率が1%であれば、2%+1%=3%となり、Treasuryよりも2%だけ年率投資利回りが逆に落ちるわけです。

「そんな利回りが悪化する将来リスクのある債券なんて買う気がしない!」と思われましたか?

ここでも、以前述べさせていただいた、「何が本当のリスクか?」という問いが有効になります。我々は、自分自身や遺族がお金を使うときのその実質購買力を維持向上していくことを目的に投資を行うわけです。実際、投資した資金がいつまでたっても、モノに換えられないなどという事態はおよそ考えられないはずです。自分か遺族が必ずいつかモノに換えることになるのは間違いありません。そのとき、実質購買力が落ちていたとしたら、投資してわざわざ実質マイナスリターンに甘んじたこととなり、そもそも投資した意味がないわけです。

例えば、わかりやすい例で、上記の例でTIPS債券への投資成果をドルのまま、商品購入するとしましょう。もし、投資した5年間において、平均年率インフレ率が20%になってしまったとします。このとき、TIPS債券からは、上記例では2%+20%=22%という年率リターンが得られるわけです。また、実際のインフレ率が年率1%であったとしたら、2%+1%=3%という年率リターンを得ることになります。

この例で重要なのは、このTIPS債券への投資では、将来、とてつもないインフレがあろうとなかろうと、投資開始時の投資元本100に対し、インフレ除きのリターンである年率2%の実質購買力の上昇がある意味、あらかじめ約束されていることです。すなわち、ざっくり言って、投資開始時にはその資金で100個しか買えなかった「モノ」が、投資終了時には、物価がどうなろうとも、必ず110個以上買えるようになっていることが、米国政府によって保証されているわけです。

「個人にとってのALM」のところでも述べましたが、私たちはみな、将来の自分自身や遺族の生活費その他の費用という、インフレ連動の負債を持っていると考えられます。なので、資産もインフレ連動で変動することが、個人にとってのリスクヘッジになっているわけです。すなわち、「何が本当のリスクか?」の問いを真剣に考えれば、手取りの紙切れが多いか少ないかは問題ではなく、その紙切れで買えるものが増えたか減ったかが本質的に重要になるのです。

http://max999.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/alm_186c.html

http://max999.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/alm2_faa2.html

だから、インフレ連動債というのは、本来、非常に優れた資産なわけです。そんな優れたTIPS債券に投資するETFがTIPです。

なので、TIPというETFを、過去の運用成果で判断しても意味はありません。過去のインフレ率が以前の市場見積もりプレミアムよりも低ければ、Treasuryに比してリターンは低くなりますし、過去のインフレ率が以前の市場見積もりプレミアムよりも高ければ、TIPのリターンはTreasuryよりも高くなります。でも、それは所詮過去のことで、何ら将来の結果を示唆していません。

TIPやTIPS債券に内在されたインフレヘッジ機能は、一種のスワップ取引でもあり、ある意味保険でもあります。したがって、「自分にはこの保険が必要か?」「この保険のプレミアム(保険料)はそのカバー(保証)に見合っているか?」と言った視点で判断すべきビークルです。

最後に一点、このインフレヘッジプレミアムは債券市場において寄り付くプライスによって自動的に決まるものです。すなわち、このプレミアムはこのリスクの売り手と買い手全員の総意という、マーケットにおける見えざる手によって、自動的に定められたプライスになっています。将来の結果はともかく、寄り付いた時点においては、その時点までのすべての情報を織り込んだ、優れたフェアプライスになっているであろうことが容易に予想されます。

市場での自由取引をベースとしたプライスであるだけに、間違っても日本の金融機関が提供するオプションのように、ぼったくりプライスにはなりようがない構造であることは言うまでもありません。

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