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2007年7月 4日 (水)

ETFの分配金希薄化は問題?

本日の日経のマーケット総合1のページに

「日経平均連動ETF 分配金の希薄化顕著に 機関投資家の動き影響」

という記事がありました。

以下、簡単にその一部を転載します。

『株価指数連動型上場投資信託(ETF)の分配金(株の配当に相当)利回りの低下が目立っている。分配金を受け取る権利の確定日を控え機関投資家によるETFの新規組成が急増。一口当りの分配に希薄化が起きているためだ。機関投資家に認められた特別のETF取得方法が配当2重取りにつながり個人投資家が不利益を被っているとの指摘も出ている。

分配金の希薄化は、株式の配当を受け取る権利の確定日とETFの権利確定日が、3月末と7月上旬とにずれているため起こる。4月以降に新規にETFを組成すると、原資となる株式の配当がないのに、分配金を支払う必要が生じるためだ。

ETFのなかでも希薄化が目立つのは日経平均株価連動型だ。

(中略)

市場では「4月以降に設定されたETFが分配金を受け取るのは不平等」(国内証券)といった指摘もある。こうした見方に対し、日興アセットは「基準価額などで調整され、不平等が起こらない設計になっているが、口数が増えた場合は分配金は減る」(商品企画部)と説明している。』

と、こんな記事なのですが、皆さんどう思われますか?

個人が受け取るべき配当が機関投資家に搾取されている!何と不条理なんだ!なんて思わないでください。

日経新聞の記者が道理を理解して書いているのかそうでないのかは不明ですが、上記のような感想を持たれた方は、見事に記事にだまされています。

このような錯覚と言うか誤解というか、こういった理解不足によって、「ETFは、機関投資家にこのようなやり方で搾取されるので、個人投資家にとって良くないビークルだ」と主張されている識者も少なからず存在します。物事をちゃんと理解できずに誤ってETFのネガティブキャンペーンをやっているだけであって、悪意を持っているわけではないのでしょうが、初心者の方がこうした識者の言論を聞いて、「ETFは機関投資家に搾取される理不尽なビークルで、ETFには投資してはいけないのか」と誤解してしまうのは、なんともやるせない話ではあります。

そこで、以下で実際に数値例を示して、機関投資家も個人も、誰一人不当に損も得もしていない、その構造をお示ししようと思います。

以下の例では、簡単のために、市場の変動はゼロとし、信託報酬もゼロとします。またETFは株式1銘柄で構成されているものとします。

まず、個人Aが1万円持っているとします。株価100であるX銘柄のみで構成され、基準価格も100のYというETFをこのAさんが3月に購入したとします。

購入銘柄:ETF(Y)、購入価格:100、購入口数:100

個人Aさんの保有資産時価=100×100=10,000円

同じタイミングで、機関投資家Bが、やはり同じ資産を、ただし、ETFではなく、その構成銘柄であるX銘柄を同じ額だけ購入したとします。

購入銘柄:株(X)、購入価格:100、購入株数:100

機関投資家Bの保有資産時価=100×100=10,000円

その後、3月27日にX銘柄において、1単位当り1の配当金が割り当てられ、同日、配当落ちがあり、X銘柄の株価は99に下がるものとします。実際の配当金の支払い日は3月31日とします。

このとき、3月31日現在の個人Aさんと機関投資家Bの資産は以下の通りとなっています。

個人Aさん:ETF(Y)100単位、ただしこのETF資産の内訳は、

X銘柄の株価99×100=9900と配当金1×100=100の合計10,000円

となります。すなわち、X銘柄の配当金支払後も、ETF(Y)の基準価格は(株価99+現金1)=100であって、Aさんの資産はETF(Y)の基準価格100×口数100=10,000円となります。(当初と変わっていません。)

他方、機関投資家Bの資産は、X銘柄の株価99×100単位=9900円の株式時価と、X銘柄の配当金1×100単位=現金100の合計10,000円となります。(これも当初と変わっていません。)

4月に入り、機関投資家Bが手持ちのX銘柄100単位(時価9,900円)を拠出して、ETF(Y)を拠出します。すると、ETF(Y)の時価総額は、

個人Aさんの持分資産:10,000円(100口)

機関投資家Bの拠出資産:9,900円(99口=9,900円/基準価格100)

合計:19,900円(199口)

(内訳、X銘柄200株、株格99×200=19,800円、現金100円の合計19,900円)

その後、7月上旬に、ETF(Y)の配当金が支払われます。ここで、ETF(Y)の中の現金資産が配当に回されます。当然ですが、この現金資産は、ETF(Y)購入口数比率に応じて、Aさんと機関投資家Bへ分配されます。すなわち、

個人Aさんへの配当支払額=100円×(100口/199口)

機関投資家Bへの配当支払額=100円×(99口/199口)

となります。

そして、ETF(Y)は配当金として現金100を吐き出しましたので、その時価は19900円から19800円に落ちています。

このETF(Y)の時価のうち、個人のAさんの持分と機関投資家Bの持分も購入口数比率に応じて認識されますから、Aさんと機関投資家Bの、配当金支払後のETF(Y)の持分も、以下の通り計算されます。

個人AさんのETF(Y)持分=19800円×(100口/199口)

機関投資家BのETF(Y)持分=19800円×(99口/199口)

すなわち、7月上旬のETF(Y)が配当を支払った後のAさんの資産総額は、

個人AさんへのETF(Y)配当支払額+個人AさんのETF(Y)持分

=100円×(100口/199口)+19800円×(100口/199口)

=10,000円

となります。(当初資産額と全く同じ額です!)

また、機関投資家Bの資産総額は、

X銘柄の配当金+ETF(Y)の配当金+ETF(Y)持分

=100円+100円×(99口/199口)+19800円×(99口/199口)

=10,000円

となります。(これも、当初資産額と全く同じ額です!)

そして、ETF(Y)の配当金支払後の基準価格は、

19800/199口=99.49749・・・

です。

ちなみに、個人Aさんの配当支払額等を計算すると、

配当額:100円×(100/199)=50.251・・・

1口当り配当額:50.251/100=0.50251

となり、

配当支払後基準価格+1口当り配当額=99.49749+0.50251=100

となり、元の基準価格に一致します。

すなわち、個人Aさんは、機関投資家Bさんの拠出により、確かに配当率は1%から0.50251%に下がりましたが、その分、基準価格は99までは落ちずに、99.49749までしか落ちませんでした。したがって、機関投資家Bの拠出があってもなくても、受け取り配当金とETF資産を足せば、当初拠出金に一致するのです。

また、機関投資家Bは、個別株式Xで配当金をもらって、現金を受け取った代わりに、同額だけ株式資産が減り、またETF(Y)へ拠出後も、ETFの配当金を受け取った代わりに、同額だけETF資産が減って、都合2回、配当金を受け取るも、その同じ2度だけ、株式資産またはETF資産が減少し、結局は、2回分の配当金と最終ETF資産を足すと当初拠出金に一致するのです。

これは、考えて見れば当たり前です。機関投資家であろうと個人であろうと、配当受け取り権利を得れば、配当落ちによって、その権利金額だけ株式またはETF資産の時価が減るのです。なので、どんな経路をたどろうとも、現金と株式またはETF資産の比率が変わるだけで、合計額はいつも一緒です。

全ての人がこの、「受け取った配当額と同額だけ、残存資産時価が減少する」というくびきから逃れられない限り、だれかが得をしてだれかが損をするなんてことは起こりえないのです。

すなわち、当初記事に戻って表現すれば、

「配当金は希薄するが、誰も損も得もしない。たくさん配当を受け取った人がたくさん配当落ちをくらい、より少ない株式資産しか残らないという構造にあり、全く持って公平である。」

というのが、正解です。すなわち、日興アセットが主張していることが正しく、国内証券や上記の一部の識者の主張が、ある意味間違いなのです。

皆さんも、くれぐれも、このような錯覚にだまされないでください。また、上記で触れたような理屈で、不当にETFが不利だと主張する人がいたら、ぜひその誤解を解いてあげて、認識誤りにより魅力的なビークルに泥をかぶせようとする行為を未然に防いでいただければと思います。

このような手の込んだトンデモロジックは見破るのが難しいだけに、より手数料を稼ぎたい一部の金融業者が理不尽なETF批判を繰り出し、作為不作為にETFの足を引っ張ろうとする可能性もあり、非常に厄介です。くれぐれもご注意ください。

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コメント

こんにちは、

今日のマネックスメールにも、内藤忍さんが同じような記事を
ETFにも当てはまる「質量保存の法則」
と言うタイトルで書いていましたよ。

投稿: Dr.CFP | 2007年7月 6日 (金) 20時45分

Dr.CFPさん、はじめまして。

マネックスメールはとっていないので、今のところ、その内容は確認できませんが、マネックスのHPで読めるようになったら、確認してみます。

情報提供、ありがとうございました。

投稿: VMax | 2007年7月 6日 (金) 21時22分

こんばんは。

機関投資家側は、金銭的に儲かるって話じゃなくて、「銀行が株式を運用する場合、通常その売買損益は経常利益に反映され、本業の収益である業務純益には反映されない。だが、株式配当金や投信の分配金、投信の解約・償還損益は「資金運用収益」等に計上され、業務純益に反映される。」
って理由らしいですよ。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-26605520070626


で、個人投資側から見たら、配当金の原資が同じで配当数が増えるので、受け取る事ができる配当金が少なくなる。

ただこれによる損は、ETFがダメだってなるほどの金額にはならないとは思いますけど。

投稿: staygold | 2007年7月 6日 (金) 23時18分

ああ、ごめんなさない。

分配金が少なくなっても分配落ちがその分少なくなるから、もともとの保有者は別に損ではないですね。

ひょっとして、ETFが分配落ち後も指数より100円ぐらい高いのは、これの積み重ねなんですかね。

投稿: staygold | 2007年7月 6日 (金) 23時45分

staygoldさん、お世話様です。

上のブログ記事には書かなかったのですが、機関投資家は参照いただいた理由により、個人投資家は配当が小さくなり、配当金にかかる税金が少なくなることによる複利効果の増大により、実は両者Win-Winの関係にあるのだろうと思っています。

>ひょっとして、ETFが分配落ち後も指数より100円ぐらい高いのは、これの積み重ねなんですかね。

まさに、おっしゃる通りだと思います。

では、今後ともよろしくお願いします。

投稿: VMax | 2007年7月 7日 (土) 00時11分

機関投資家が大量に買い付ける
ETF組成のため、株を買い付け、一部を機関投資家から株を借りる
配当後、機関投資家がETF売却
支払いのためETFの一部を解体
機関投資家に株が返却されると共に貸付金が入金

この最後の貸付金の分だけ、ETFを保持する側が損をするのではないでしょうか? 違っていればスミマセン

投稿: 素人なんですが | 2007年7月 7日 (土) 04時43分

素人なんですがさん。はじめまして。

どうも、おっしゃっていることがよくわかりません。

コメント中に貸付金が出てきているのですが、貸付を行うのはだれでしょうか?
私の文章の理解がもし正しければ、ETF組成のために、機関投資家が株を他の機関投資家等から借りるとすれば、それはETFの外で勝手に行われていることで、ETF保有者にはなんら影響はないのではないでしょうか。機関投資家がだれかから株を借りてトヨタの株を準備しようと、市場から買い付けて準備しようと、トヨタの株はトヨタの株であって、ETFはどちらの場合でも単にそのトヨタを含む指数株式セット一式を受け取るだけのことです。

もし、その株式セット拠出のためにその機関投資家が他人から株を借りたとすれば、それは、ETFの外で、機関投資家と他人の2者間の契約の話であって、その両人の契約に伴う権利義務の話がETF内に影響を与えることは、物理的にあり得ない話だと思います。

もし私が、コメントの意味を取り違えていたらごめんなさい。

以上、よろしくお願いいたします。

投稿: VMax | 2007年7月 7日 (土) 08時21分

同一の機関投資家が運用会社に株を貸すのと、ETF購入を行うという意味です。よく考えみれば、今回のVMaxさんの記事とは、ずれていましたのでスミマセンでした。
私は日本のETFは、機関投資家なら立会外取引可能な所などに胡散臭さを感じてしまいます。

投稿: 素人なんですが | 2007年7月 9日 (月) 04時51分

このブログの記事を夕凪さんに紹介した人がいまして、夕凪さんが野村アセットに問い合わせて下さいました。
http://www.geocities.jp/yuunagi_dan/Day/current.htm
このブログの記事を夕凪さんに紹介した方は、こちらにも結果を紹介して欲しかったように思います。
米国のETFで、こうした事態は起こらないのでしょうか?

投稿: 素人なんですが | 2007年7月13日 (金) 04時14分

素人なんですがさん、お世話になります。

上記の件、情報提供いただきましてありがとうございました。

とりあえず、教えていただいたHPを確認してみました。

今のところ、その内容についてきちんと当方で検証、確認が出来ていないので、何ら確定的なことは申し上げられないのですが、もし、このHPの方の書かれていることが100%正しいとすると、日経225ETF既存投資家に対し、以下のようなインパクトがあると思います。

通常受益権口数:短期的増加受益権口数≒3:1程度のようですので、既存投資家が5bps/3=1.67bps(0.0167%)程度の損失を被るのではないかと思います。しかしながら、配当による分配が少なくなることによる税金繰り延べ効果(好影響)も同時に存在しますので、それを加味すると、結局、既存投資家にとっては損失は無いか、あってもゼロコンマbps程度(0.01%未満)になってしまうと思います。

この試算は、ご紹介いただいたHPの記載が100%合っていた場合の試算であって、今のところ当方から上記が正しいか間違っているかはっきり申し上げることができません。

事実関係や投信会社の会計認識と会計計上等について、さらに調べて見ようと思います。

ご連絡ありがとうございました。

投稿: VMax | 2007年7月13日 (金) 11時46分

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