ETFとETNの違い
表題の件について、なぜかその決定的な違いが説明されないまま、意図的なのか無意識的なのかは不明ですが、特にカウンターパーティリスクに関し、両者を混同しているかのような記載を最近あちこちで目にします。またこの点について、きちんと解説されている文章も見受けませんので、当ブログで解説してみようと思います。
ETFは、正式にはExchange-Traded Fund、ETNはExchange-Traded Noteと言います。
まず、ETFの仕組みから簡単に説明しますと、まずは投資信託というものが世の中には存在します。運用者(投資信託会社)と財産管理者(信託銀行)が分離されており、運用者は運用指示はできても、信託財産に触れることはできない仕組みになっています。運用者から資産を遮断することにより、信託財産の保全を図るしくみです。
また、この投資信託には、オープンエンドとクローズドエンドと呼ばれる異なる取扱いがあります。オープンエンドは随時の購入が可能なもの、クローズドエンドは一定期間の募集期間の後、購入が不能となっているものです。通常、クローズドエンドのファンドは、販売会社や投資信託会社からの購入が不能な代わりに、株式市場に上場していて、あたかも1株式のように、市場取引で購入できるようになっていたりします。
この市場取引されるクローズドエンドファンドには2つの価格があります。市場での取引価格と、ファンドの資産時価をファンド口数で割った理論的な時価(NAV)です。市場取引を可能としたことから、人気のあるクローズドエンドファンドは、NAVを上回って取引されることもありますし、人気の離散したクローズドエンドファンドはNAVを下回って取引されることもあり得ます。
ある意味、非合理的な話ですが、裁定手段のない状況、自由な選択肢のない状況では、本当に理論価格より10%、20%上の価格で取引されたり、逆に10%、20%下の価格で取引されるようなクローズドエンドファンドがあったりします。これはUSの話ですが。
このクローズドエンドのある意味非合理的な部分を、商品資産構成銘柄の拠出によっての商品資産の獲得、また逆に商品資産引渡しによる構成銘柄の受け取りを可能にすることによって、適正な裁定行動可能な状況を作り出し、市場取引により売買されるにもかかわらず、その市場取引価格と論理的な時価(NAV)との乖離が殆ど起こらないような市場取引資産ビークルとしたのがETFです。
いわば、ETFは変形クローズドエンドファンドとも呼べるビークルかもしれません。
こういった構造上、ETFの構成資産は拠出が可能なように明確に定義されていて、かつ毎日のNAVが正確に算出され、裁定行為が可能な仕組みとなっているのが通常です。
逆に言うと、ファンドの構成資産を、現物拠出可能とする形に構成できない場合には、なかなかETFとして商品設計することが難しいわけです。
そこで、そのような商品の場合に使われるのがETNという商品形だったりします。十分な信用力をもつ発行体が、ある資産に連動して価格が変動することを保証する、ある意味リンク債のようなものを発行して、それを市場で取引する形がETNの仕組みとなります。
この仕組みが良く用いられるのは主に商品系のビークルだったりします。例えば農業関連の商品だと、商品の実物は時間の経過とともに劣化したりしますので、通常の現物拠出の形のETFの仕組みで商品設計することはちょっと不可能に近いんじゃないかと思います。主にこんな構造の商品の場合に、ETNの仕組みが使用されたりするわけです。
必然的に、ETNを購入する場合には、そのリンク証券の発行体のカウンターパーティリスクを負うことになります。ETFの場合には、そのETFを構成する全ての銘柄は、信託銀行において実物が管理されていますが(実体が信託銀行の金庫にあるかどうかは別にして)、ETNの場合は、発行体がその発行証券がある資産に連動することを保証しているだけで、そのある資産が分別管理されて実在するわけでは必ずしもないからです。
極端な話、発行体がそのリンク証券のパフォーマンスを保証するための適切なヘッジポジションを構築しなかったり、あるいはその他の事業上の理由によって発行体が倒産してしまえば、そのETNは論理的には紙切れに成り得ると思います。そういう意味で、ETNはちょっと注意すべきビークルかもしれません。
裏づけとなる実物資産が区分管理されていることが見込まれるETFの場合は、信託銀行が仮に倒産しても、管財人により適切に清算されれば、その実物資産に見合った価値が返還されるだろうことが期待できますが、ETNの場合は発行体の信用力のみが頼りですから、仮に発行体が危なくなったら、それだけでETNの投売りが始まり、リンク元資産が指し示す理論価格より大幅にディスカウントされた売買が始まってしまうかもしれません。(その実例はまだないと思いますが)
そうはいっても、USでのETNの発行体はバークレーズのような信用のおける金融機関だったりしますので、容易にそんなことになるとは思えません。しかしながら、ETNを買うときは、ETFとは違って現物の裏づけではなく、カウンターパーティの信用力が頼りの資産を購入しているのだという理解をしておくことは重要だと思います。
上で書いたとおり、このETNは商品系のビークルが多いのですが、例外として、インド株のETNがUS市場では存在しています。その経緯はまったく把握していませんが、インドは確か国外者の株式購入が自由にできなかったように思いますので、もしかするとそれが関係しているのかもしれません。
今まではETNといってもUS市場ビークルの話で、米国証券口座等で取引されている方以外にはあまり関係がない話であったのですが、最近、大証で金のETFが上場するというニュースが発表され、これが、実は上で説明したETNの仕組みで構成されているようなのです。日本の証券取引所で取引される資産を日本の証券会社を通じて購入される日本人の方にも、このETNのきちんとした知識が必要になる日も近いということもあり、今回この話題を取り上げることとしました。
なお、英語が苦にならない方は以下の記事が参考になると思います。(上で触れなかったETNのメリットに関する記載もありますので、興味ある方はご参照ください。)
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コメント
とてもわかりやすかったです。どうもありがとう。
投稿: kosugi | 2008年2月27日 (水) 00時48分
どういたしまして。
投稿: VMax | 2008年2月27日 (水) 07時14分
大変勉強になりました。
私は工業向け貴金属業界に勤めておりますが、お客様からETFとETNの違いについてご質問をいただくことが多々あります。
近日中東証にETFが上場されるとのこともあり、改めて整理することが出来ました。
有難う御座いました!
投稿: ponta | 2009年8月21日 (金) 13時15分
pontaさん、コメントどうもです。
お役に立ててなによりです。
投稿: VMax | 2009年8月21日 (金) 19時45分
拙ブログにてこちらの記事を紹介させていただきました。
「etfとetn」でヤフー検索したら一番にでてきたもので。
投稿: ひで | 2011年8月24日 (水) 07時59分
ひでさん、はじめまして。
ご連絡ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: VMax | 2011年8月28日 (日) 20時04分