グローバルな自国株式は国際分散投資を代替するか?
様々なところで、「例えばトヨタは世界の市場に車を輸出しているのだから、グローバルな事業展開をしており、このような日本株に投資すれば、狭い日本の景気の影響を大して受けることはなく、国際分散投資をするのと同様の分散投資効果が得られる。だから、国際分散投資など必要ない。」という主旨の主張を目にすることがあります。記憶が定かではないのですが、有名なさわかみファンドの澤上氏も、確かどこかでこのような主張をされていたように記憶しています。(間違っていたら、ごめんなさい。)
これは、本当でしょうか?
最近読んだこの本に、学者の実証研究によってこの主張が明確に否定されていることが記載されていました。
この本によれば、「『米国市場のように上場企業の相当数がグローバルな企業活動を行っている場合、これら多国籍企業への投資を通じてグローバル分散投資の効果を享受できる』という仮説は、ジャカイラとソルニック〔1978〕、ヘストンとローエンホルス〔1994〕の実証研究によって、『多国籍企業の株価変動は本拠地(上場国)の影響を強く受けており、グローバル分散投資の効果はほとんど期待できない』という結果になっている」とのことです。
米国の実証統計分析で、「グローバルな自国企業への投資は国際分散投資を代替できない」という研究結果を示す論文があるとは初耳でした。しかしながら、さもありなんという内容です。
グローバル化が格段に進んでいる米国市場における実証研究でさえだめなのですから、日本のグローバル企業への将来の投資も、やはり国際分散投資の代替にはなり得ない結果となる可能性が高いのだろうと思います。
国際分散投資派としては、この本の中で示されているような、「国際分散投資の優位性と必要性は、ただの絵空事理論ではなく、過去の実証分析結果でもきちんと示されている」というのは心強いですね。
その他にも、この本は、自国資産に傾きがちなホームバイアスは、決して日本でのみ発生している現象ではなく、世界各国で共通の現象であること(イギリスの企業年金では60%程度、その他の各先進国の企業年金では軒並み資産の80~90%超を自国証券に投資しているとのことです)、自国で職を持って自国ビジネスから日銭を稼いでいる人は、自国を除いた世界資産ポートフォリオを構成するくらいのほうが、全くもって経済合理的であること等の論理が展開されています。(この点についてはバクスターとシャーマン〔1997〕の研究を引き合いに出しています)
特に、この本の中で展開されている論理が、感覚的なものでなく、きっちり理詰めで展開されているところが、とても好感が持てます。
株式市場のアノマリーと行動ファイナンスに興味がある方には特にお勧めです。良かったら、読んで見てください。
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コメント
はじめまして。いつも参考にさせていただいております。
「海外投資生活」というブログを書かせていただいております。
私のブログにリンクを貼らせていただきました。
もしよろしければ相互リンクをお願いいたします。
今後も参考にさせていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: ミルフィーユ | 2007年7月 6日 (金) 00時49分
ミルフィーユさん、はじめまして。
相互リンクの件、承知いたしました。
当方ブログよりリンクさせていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: VMax | 2007年7月 6日 (金) 21時19分
私も澤上氏のセミナーでこの話を聞いたことがあります。
その場で何となく疑問に感じてもプロが話すことなら間違いはないと思ってしまいますが、しっかりと検証することは大事ですね。
長期投資の重要性は感じるものの、何を用いて長期投資を行なうかはよく考えないと痛い思いをするような気がします。特に個人投資家の見方を標榜するものほど。
投稿: 弥太郎 | 2007年7月 6日 (金) 23時32分
大変役に立つ情報ありがとうございます。僕が自分のポートフォリオを組み立てたとき、日本や(今住んでいる)アメリカの資産を多めにしたほうがいいんじゃないか、という意見をいただきました。迷ったあげく気にしないことにしました。むしろ少な目のほうがいい、というのがこの本の論点ですね。将来ポートフォリオ再考の機会があれば、参考にいたします。
国際投資の利点が再確認された点も、重要ですね。
これからも記事楽しみにしています。
投稿: 与六 | 2007年7月 6日 (金) 23時42分
弥太郎さん、与六さん、コメントありがとうございます。
澤上氏の話は、私の記憶違いではなかったようですね。
この手の話は、やっぱり人間の直感や思い込みといったものがいかに当てにならないかといった一例だと思います。
この運用の世界では、似たような話は、あちこちにころがっています。シーゲル氏の「成長の罠」もそうですし、行動ファイナンスや投資に関する人間心理もそうだと思います。
放っておくと、実際の運用成果で痛い目に遭ってしまうので、いい加減に済ませておくことは致命傷になりかねません。
お互い、きっちりアンテナを張って、貴重なエビデンスは最大限活用していきたいですね。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: VMax | 2007年7月 8日 (日) 18時31分
VMaxさん、
はじめまして。まろさんのエントリーを見て、こちらのブログとこのエントリーを知りました。
非常に興味深い内容で、勉強になります。
私は、現在米国在住なのですが、引用の本で述べられている件、ジャカイラとソルニック〔1978〕、ヘストンとローエンホルス〔1994〕の実証研究によって『多国籍企業の株価変動は本拠地(上場国)の影響を強く受けており、グローバル分散投資の効果はほとんど期待できない』という結果になっている、と言う部分を見て、非常に興味を持ちました。
最初に少し気になったのは、研究の時期です。通常の株式の場合、過去のデータは非常に重要で、現在にも十分当てはまるケースは多々ありますが、この様なケースの場合、事情が違うのではと思いました。(感覚的なものです。すみません。)
私事なのですが、私は1990年から外資系の日本企業に勤めており、2000年から米国本社の方に籍を移し、現在に至っております。90年の中ごろに2年ほど、カリフォルニアにいたこともあります。
自分の会社と業界のみの部分の認識・経験からになってしまうのですが、多国籍企業の内部での大きな変化を体験してきました。また、株式投資に関しては、2000年から実際に投資を始めましたが、株式市場には以前から興味があり、見てまいりました。
その経験と感覚的な、第一印象は、ホームバイアスは確実に存在するものの、この調査の時期(94年)と今とでは、多国籍企業とその株価、国と国の株式市場の関係等、状況がかなり違うのではないか?以前は、確かに株式市場自体も、国と国での相関関係は今ほど無く、細かいセグメントごとの国をまたがる様なトレンドもあまりなかったのでは、と思いました。
気になったので、インターネットで調べたところ、こういったテーマは学術的にも興味深いようで、いくつか最近のデータをとって、比較しているところを見つけました。 それらしいものを見つけ読んでみたのですが(飛ばし読みなので十分気をつけてません。まちがっていたら、すみません。)、概要的には、2000年の前半頃までは、上記の見方が大勢を占めていたようですが、ここにきて変わってきているようです。
参考までに、それらしいもののURLを添付します。(両方とも、恐らく大学のファイナンスの研究テーマの様です)
http://www2.unine.ch/webdav/site/iaf/shared/documents/Thesis20070618.pdf
http://www0.gsb.columbia.edu/faculty/gbekaert/Financial%20Market%20Integration.ppt
尚、これらの比較は、直接的にHestonとRouwenhorstの説を比較して検証しているわけではなく、リサーチのゴールも若干異なっています。また、最初のものはヨーロッパの国々との比較に限っております。また、二つ目のものは、アジアや南米の国も含まれています。
株のパフォーマンスと言う部分での比較があるか少し探してみます。
いずれにせよ、日本の株(トヨタ等の国際的に事業を展開している会社の株を含めたとしても)のみに投資するのではなく、国際分散投資する方が良いと言う意見には、賛成です。
今後とも、VMaxさんのブログに立ち寄らせていただきたいと思います。
長々と書いてしまい申し訳ありませんでした。
投稿: Alpha | 2007年7月26日 (木) 14時29分
Alpha様、はじめまして。
コメントいただきましてありがとうございます。
いただいたURLの件、ちょっと見てみましたが、簡単にはその内容をきちんとつかむのは難しそうですね。今度、じっくり読んで見ようと思います。
個人的に、このエントリーを書いてから、なぜこうなるのか考えて見たのですが、個人的に思い当たるのが以下のような理屈でした。
例えば信用取引で満玉張っている人が日本株式の急落で追証を食らっているときに、やられている株ではなく、あまり下がってない国際優良株を切って追証状態を解消しようとするといった事例があるのではないかと思います。現金にすれば信用枠が増えると思いますので。また、大きな損をしている株の損失を実現したくないという、いかにもまずい投資家心理もこのような行動に走るインセンティブを強めるのではないかと思います。
100%株式新聞の想定する世界ですが、やっぱりマスの行動としては典型的によくある事例なのではないかと推測します。
かくして国際優良株が、ローカル市場の浮沈の影響を非合理に受ける構造になるのかなと。
国際優良株に投資する投資家の多くがグローバル分散投資を行い、合理的な投資論理に基づき、合理的な行動をするようになると、上記のようなローカル市場のナンセンスな影響はきれいに消えるのかもしれません。
いただいたURL等の最近の研究も、世界各国市場がそのような望ましい方向に向かっているという良いサインであればいいですね。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: VMax | 2007年7月26日 (木) 21時19分
VMaxさん、
私のコメントに対する返事ありがとうございます。添付のURLの文章に関しても、私も飛ばして読んでいるので、正直なところ、少し無責任かと思い、添付するのを躊躇しました。
(ただし、添付の文書の内容自体は、結構面白いと思うので、この件を置いておいても、読む意味はあると思います。他の国の投資家なりファイナンスと言った一視点が分かるので)
ローカル(自国)の多国籍企業に投資して、それで国際分散投資をしている、と考えるのは、かなり危険だと思います。米国は、良くも悪くも、自国中心に世界が回っていると考える傾向があります。また、他の文化やビジネス・カルチャーを理解するのも、一般的には得意でないと思います。(もちろん、例外はありますが。)
日本の株式市場は、外から見ると、かなり異質に見える面が少なからずあります。日本の投資家が、リスク分散、長期にわたる安定した投資パフォーマンスといった観点からも、国際分散投資をすることに関しては、私も大賛成です。
後、VMaxさんのもう一つのエントリーに対して入れているコメントに対してもなのですが、私は、VMaxさんの主旨に対しては、(かなり)近い意見・見方を持っています。
ただ、そのポイントにいたる仮定で、引用なり、データの面で、ちょっと個人的に気になった部分があり、コメントしてしまいました。自分で書いてから、言うのは、非常に恐縮なのですが、あまり生産的でなかったかもしれません。また、VMaxさんの私のコメントに対する返事に、きちんと対応してない気がします。申し訳ありません。もし、気分を害された様でしたら、お詫び申し上げます。
VMaxさんの視点・見方については、私は、敬意を持っています。
投稿: Alpha | 2007年7月27日 (金) 02時23分