« 海外証券口座の為替リスク(その2) | トップページ | 小口投資家の頻繁な取引 »

2007年7月10日 (火)

為替市場の不思議

相変わらず、世界各国通貨に対する円安と、円建ての海外株式の信じられないほどの高パフォーマンスが続いていますね。

インドやカナダなんかがとてもよくこの現象を象徴しています。

http://finance.yahoo.com/charts#chart3:symbol=^bsesn;range=20070102,20070709;compare=inp;indicator=volume;charttype=line;crosshair=on;logscale=on;source=undefined

http://finance.yahoo.com/charts#chart2:symbol=^gsptse;range=20070102,20070709;compare=ewc;indicator=volume;charttype=line;crosshair=on;logscale=on;source=undefined

円建ての比較グラフを作るのが難しいので、それぞれドル建てのグラフになっていますが、それでも、現地通貨では対して高パフォーマンスというわけではないのに、ドル建てでは、高パフォーマンスになっています。すなわち、円建てであれば、このグラフよりも、もっと高パフォーマンスとなっているわけです。(今年は、円はUSドルに対しても円安になっています。)

国際分散投資を行っている人にとっては、まさにホクホクな状況ではあるのですが、果たしていつまでこんな状況が続くのか、日本国民としては不安になります。

言い換えると、今の円安がどこまで行ってしまうのか、日本国はこのまま斜陽化してしまうのかという不安です。

今の円安は行きすぎで、いずれ大きく円高へのゆり戻しがあるという意見もあると思いますが、昔、私が血縁者に「もう円のUS除く海外通貨に対する円安は5年以上も続いている。頼むから、資産ポートフォリオに外貨を入れてくれ。」と頼んだときから、もう1年半くらいは経ったはずです。いったい、いつ、そんな時が来るのでしょうか?

円の金利は世界通貨で最低であるほど低いので、高金利通貨に流れており、それで円安になるのだという、ある意味単純な主張があります。果たして、事態はそれほど単純なのでしょうか?

通常、国の信用力が低ければ低いほど、高い金利を払わなければならないはずです。それは、発展途上国の金利を見れば一目瞭然だと思います。では、日本の国家としての信用力は、世界一なのでしょうか?どうも、そうは思えません。日本政府のとてつもない大借金状態は変わらず、またプライマリーバランスもマイナスで、今もなお、事態は悪化し続けているようです。国の抜群の信用力による超低金利というわけではなさそうです。

では、低金利は不景気が原因でしょうか?確か、今は戦後最長の好景気の渦中ではなかったのでしょうか。そもそも、不景気で政策金利である短期金利は低くできても、10年国債等の長期金利は、国の信用力が低ければ、その高騰が免れないはずです。

もしかすると、国の需要不足が原因でしょうか?世界に誇る少子高齢化の国ですし、もうモノ不足の国でもないですから、モノへの需要が小さく、相対的にモノに対する円通貨の需要が大きく、構造的にインフレが進みにくい国の体質になっているのでしょうか?

そういえば、車の国内販売も、ずいぶん低迷しているようです。

米国も、ユーロも、イギリスも、カナダも、世界中であちこち利上げが行われているようですが、おそらく日本は、今のところ、インフレが進まず、金利を上げなくても実質金利がマイナスにならない、数少ない国なのではないでしょうか?

純粋理論的には、金利裁定を仮定しても、購買力平価を仮定しても、円安ではなく、円高に向かうべきであるように思えたりするのですが、実際はとてつもない円安に進み続けています。

ファンダメンタルからいって、円はどちらに向かうべきなのでしょうか?

以前、ご紹介した「日本経済のリスクプレミアム」という本では、相対購買力平価説に基づく長期分析では、なんと足元が円高すぎるという結論で、ファンダメンタルからいうと、さらなる円安への動きが妥当という、ある意味、びっくりする結論でした。

与六さんが以前ご紹介された記事でも、モデルによって円が割安であったり、割高という結論だったりして、理論的な正解が一方を指し示す形になっていないという結論になっていたようです。おそらく、学者を含む世界中の誰もが、確信をもって今の円が割高か割安かを証明することなどできないというのが、まぎれもない真実なのかもしれません。

http://yoroku.blogspot.com/2007/06/blog-post_23.html

学者が想定する、マーケットは合理的投資家で成っており、非合理な歪みは、瞬時に裁定されて本源的価値に収束するという美しい仮定は、為替市場においては、そもそも円が割安なのか割高なのか、誰一人正解を知るものがいないという、まことに情けない実態により、そもそも否定されかねない前提であるわけです。

もともと、その程度のまことに怪しい本源的価値であって、かつその本源的価値も日々変動し、どちらかの方向に動き続けているかもしれないとあっては、為替市場に対して、ファンダメンタルの立場から、どちらか一方向への方向の先にフェアバリューがあるという結論を持つこと自体が、まことに困難なことかもしれません。

ひとつ言えるのが、各国でそれぞれ存在する、強烈なホームバイアスによって、各国間の金利と為替においても、フェアな裁定が働いてはいないのではということが疑われます。

http://max999.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_3a2a.html

この記事においても、各国の企業年金で軒並み極端に思えるほど自国資産を保有する行動が見られます。また日本国債の殆どが日本国民に保有されていることを見ても、日本国の信用力が、他国と十分裁定された上で、その国債金利水準が定まっているとはとても思えません。

大前研一氏によれば、日本人の資産保有行動は、全くもって非合理的とのことです。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/a/86/

たしかに、冒頭のように、他国に投資するだけで円安に背中を押してもらってとてつもなく儲かる現状で、日本国資産だけに固執するのは、合理的な投資行動には見えません。

それでも足元では、日本人の外国資産への投資(含むFX)は、どんどん加速してきているように思えます。今でも個人金融資産に占める外国資産の割合は3%とか、そういった水準だったように記憶しています。日本人の投資行動が、強烈に非合理的なホームバイアス満載の状況にあって、それでも、合理的となる方向へ資産が動いているのが今の状況だとすれば、この方向への動きは、何十年もかけて今後も継続していくのかもしれません。

イギリスの企業年金の自国資産への投資割合が60%程度であって、その他の先進国の80~90%超といったクレイジーな水準とは明確に一線を画しているのは、もしかするとただの偶然ではないかもしれません。過去、ホームバイアスによって、自国の斜陽化が進む中、強烈なポンド安と他国の発展による果実を取り損ねてきたという経験を積み重ねてきた国であるからこそ、そのホームバイアスの度合いが、先進各国中で一番ひどくないのかもしれないと、ふと考えます。

錯覚であるのかもしれませんが、日本人のホームバイアス、極端な少子高齢化、極端な低金利と、恒常的に進む異常な円安とが、互いに深い関係を持っているように思えてなりません。そして、そのホームバイアスは少しずつではあっても、確実に解消の方向に事態が進んでいるように見えることから、日本の低金利は長い目でみて解消していき、また異常に見える円安はさらにその加速度を増していくのかもしれません。

|

« 海外証券口座の為替リスク(その2) | トップページ | 小口投資家の頻繁な取引 »

コメント

よくわからないのですが、今の円安を「異常」とする根拠は何でしょうか?日本はいまだにデフレである以上、金融緩和政策を採るのが当然であり(私見では、これでも全く不十分であり昨今の日銀の利上げ論議に至っては「逆噴射」以外の何ものでもないと思います)、インフレ基調の諸外国が金融引き締めを継続する中で、円安が進むのはむしろ当然ではないでしょうか?今の円安は日本経済が正常化する過程での不可避のプロセスであり、「異常」と忌避するのはおかしいと思うのですが。

投稿: dell | 2007年7月10日 (火) 19時35分

dellさん、はじめまして。

コメントありがとうございます。

なぜ、円安を「異常に見える」と書いているかは、以下の文が全て示しています。

>純粋理論的には、金利裁定を仮定しても、購買力平価を仮定しても、円安ではなく、円高に向かうべきであるように思えたりするのですが、実際はとてつもない円安に進み続けています。

決して、純粋な金融理論を信奉する者ではないですが、まずは無裁定原理の働く理想的な金融世界であればどうなるかという理論的帰結から、このエントリーの根っこはスタートしています。

モノと通貨間で裁定が働いている世の中であれば、金利裁定であれば、低金利の通貨が、購買力平価による裁定であれば、インフレ率の最も低い通貨が、理論的にはもっとも強くなっていくはずです。

このエントリーもまず、その金融の世界の論理から出発しており、その通りにならないのは何故かという視点で書かれています。

これを踏まえて読んでいただければ、「異常に見える」と書いた理由がはっきり理解いただけるはずです。
逆に、そのような背景を踏まえていただけず、「高金利通貨は高くなる」というロジックで見れば、このエントリーは摩訶不思議な記述かもしれません。

高金利通貨が強くなり、低金利通貨が安くなるのは、通貨の金利裁定を仮定すれば異常です。これに対し、高金利通貨は高くなるのが当然という立場を取れば、確かに今起こっている現象は自然な現象と解釈されますが、それは理論的には裁定機会が持続的に温存され、その機会から利益を紡ぎだし続けられることが自然と考える立場に立つことにもなります。(その裁定機会が冒頭のいわゆるインドやカナダの株式市場の破格の円建てリターンにも現れています。)

それは前者の立場から見れば、裁定機会は永遠に消えず、その時々の高金利通貨に資金を投入し続ければ通貨市場から破格の実質リターンを稼ぎ続けることができ、無限の富が構築可能とする立場に見えますので、そんな世の中は想定できず、理論的には「異常」に見えるわけです。

長くなりましたが、「異常」の意味が伝われば幸いに思います。

投稿: VMax | 2007年7月10日 (火) 20時59分

「異常」の意味、了解です。意図をかなりミスリードしていたようです。
ちなみに、Jモンティアの「行動ファイナンスの実践」によれば、その意味での「異常」はむしろ通例のようで、アンカリングにより金利差の変化に鈍い投資家が居て、かつそれ以外の投資家がリスク回避的かつ流動性制約を受けているとそういう現象が起きるとしています。

投稿: dell | 2007年7月10日 (火) 23時52分

dellさん、

>Jモンティアの「行動ファイナンスの実践」によれば、その意味での「異常」はむしろ通例のようで、

上記情報提供いただき、ありがとうございます。

何故か、どこかで読んだことのあるような理屈で、もしかすると、当方の家の本の山の中に埋もれているのかも?

今度、確認して見ます。

それでは、今後ともよろしくお願いします。

投稿: VMax | 2007年7月11日 (水) 07時09分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/202973/15713029

この記事へのトラックバック一覧です: 為替市場の不思議:

« 海外証券口座の為替リスク(その2) | トップページ | 小口投資家の頻繁な取引 »