インデックス投資が賭けているもの
インデックス投資が賭けているものについての、個人的見解を記しておきたいと思います。
インデックス投資だからといって、個別株投資が賭けているものと本質的にあまり変わるところはないと思います。
ある会社の株式を買うとき、まっとうな投資家であれば、その会社に出資してもよいという判断のもとに、その株式購入の決断をしているはずです。すなわち、その会社に投資すれば、その会社は継続的な利益を創出する能力を有しているので、投資金からみた将来リターンは投資額に比して満足なものになるはずだという見込みのもとに、当該会社への投資を決めると思います。
インデックス投資も同じことだと思います。投資するインデックスに属する企業群も、程度の差はありこそすれ、継続的な利益を創出する能力を有しており、それら企業群への投資により適切なリターンが見込めるはずだと思うからこそ、そのインデックスへの投資を決定すると考えるのが本来の筋だと思います。
よく、インデックス投資は、将来の資本主義経済の発展に賭けているというような論がありますが、これは必ずしも正しくないのではないかというのが、私の個人的視点です。
例えば、個別の会社が、売上成長率ゼロ、利益成長率ゼロでも、利益を創出する能力があり、毎年継続的な利益を生み出している限り、その会社の株式にはなんらかの値付けがされ、その株主にはプラスのリターンがもたらされます。おそらく、そのような状態では、国債のような無リスクリターンビークルよりも、高い利回りが得られるような株価になっているはずです。
なので、仮にここから、世界中の会社の成長がゼロとなって、成長期待がはげたとしても、株価は下がるとは思いますが、世界中の会社の利益を創出する能力が失われない限り、それら会社は正の価値を生み出し続け、それは、株主配当や自社株買いといった手段で、株主にその利益が還元され続けると思います。その正のリターンは、いずれその投資家の投資成果を正のリターン領域に連れて行きます。
また、この世の中は、原則的にリスクアバースな世の中になっていて、バブルの絶頂前後といった特殊な時点を除き、たいていの時点で、リスクのあるビークルの市場価格は、期待値として無リスクビークルよりも高いリターンが見込める水準でその価格が取引されています。要は、超過リターン期待値が見込めなければ、無リスクビークルを上回る超過リスクを引き受ける人はなかなかいないのがこの世の中です。
なので、インデックス派は、市場で取引されるインデックスを構成する各会社の株式取引価格は、その大半の期間において、無リスクビークルを上回る超過リターンの見込める価格で寄り付いているはずであると想定します。なので、継続的に市場価格でインデックス構成銘柄を、その構成割合に応じて買い付け続け、継続的に保有しつづけることになります。
これはある意味信念であって、将来必ず成り立つものであるとはいえません。しかしながら、過去、超長期の資本主義市場の歴史の中でずっと成り立っていたという動かしがたい結果があるのも明白な事実です。
すなわち、インデックス投資が賭けているものは、市場の右肩上がりの成長でもなんでもなく、市場に存在する株式会社群の利益を創出する能力と、その将来の能力の程度を評価して、無リスクリターンビークルよりも高リターンとなる株価水準に、たいていの時期においてその株価を寄り付かせる、市場の価格決定能力の2つであると思います。
この2点が信じられるから、将来市場が大きく成長しても、しなくても、その度合いも含めて、自分が推定するよりも、市場の総意の結果である寄付価格のほうが、長期的に見てはるかに優れた推定価格であって、その価格で市場を買うことによって、無リスクリターンビークルを買うよりも、ずっと大きなリターンを得ることができることが信じられるわけです。
短期的な市場の動乱やバブルを見ると、一見とてもそうは思えませんが、過去の超長期の資本主義市場の結果を参照すれば、市場インデックスに継続的に投資していけば、無リスクリターンを明確に超過するリターンを得つづけることができたという統計結果は、誰にもなかなか否定できません。
それでも、市場の動揺時やバブル時を後から判断すれば、市場の価格ではなく、自己の判断に基づく投資の方が明らかに優れているはずだという判断を、人は得てしてしがちです。このような考えで、人は簡単にタイミング投資の世界に足を踏み出してしまいますが、その方向は思ったよりずっと手ごわいのが現実です。間違いなく、それで市場リターンを継続的に上回る実力がある人は、ジョージ・ソロスになれます。グローバル・マクロのヘッジファンド運用手法は、それを採用するヘッジファンドが昔に比べてどんどん減っているのが現実のようです。「市場の値付けよりも、自分の値付けの方が優れていて、タイミング投資を行うことにより市場を出し抜ける」という考えも、世界最高岬の有能な人種がしのぎを削るヘッジファンド業界でもなかなか容易には実現できない極みへの挑戦となります。
インデックス投資が賭けているものは、なかなかもって強固なものであって、容易に崩れるものではありません。短期的には市場はとてつもなく愚かに見えるときもありますが、実際はその市場に勝とうとしても、過半数はその勝負に敗れてしまう、とっても手ごわい相手です。「自分なら勝てる」、古今東西、人間がもつ「オーバーコンフィデンス」が、市場に対して勝負を挑み続け、多くの人が敗れ去ってきたのが、過去の歴史でしょうし、これからも、延々とこの結果の見えている勝負は繰り返されていくに違いありません。これは、ある意味、人間のさがとでもいうべきものだと思います。
私も、この自分の中にある「オーバーコンフィデンス」を知り、これが自身の資産運用成果に致命傷を与えることのないように、いつも、自分に言い聞かせ続けているのが実態です。
こういった整理をしていくと、世界中の株式会社の利益を創出する能力と、市場の総意がもたらす、たいていどんな専門家よりもすぐれた値付け能力が生む無リスクビークルリターンを超過するリターン水準をもたらす価格決定機能について、その信頼感を失う事態が生じない限り、インデックス投資を行う投資家がその投資を止める理由は発生しないことになります。この流れで考えれば、具体的にこの投資を止めるようになる事態はなかなか具体的に想定できません。これが、インデックス投資と損切り等のリスクマネージメントが一般になじまない理由だと思います。
だから、私はインデックス投資は、損きりによるリスクマネージメントではなく、リスクポートフォリオデザインによるマネージメントが適切だと考えています。また、運用成果が悪かったからといって、株式比率を下げるといった対応は、本来のインデックス投資のまっとうなリスクマネージメントではなく、理想としては、一生耐えられる自身のリスクエクスポージャーの度合い(株式比率、外貨比率等)を決定して、それを短期的な結果が良かろうと悪かろうとずっと続けていくのが、インデックス投資のあるべきリスクマネージメント方法だと思います。もちろん、投資金額を超えてのレバレッジ投資は、ずっと投資を続けていくことを想定しながら、それが不可能となるリスクをわざわざ取ることとなって自己矛盾であると考え、それをやらないことを自身にルールとして課しています。
このように考えると、最近のサブプライム問題やその他世間をにぎわした過去の様々な事象も、上記のような考えのインデックス投資家にとっては取るに足らない事象でしかありません。インデックス投資家がその投資方法を捨てるときは、世界中の株式会社が押しなべて利益を創出する能力を失ったとき、あるいはその株式に対する市場の値付けが一過性で無く、とんでもなくおかしなものとなってしまうときとなります。私には、具体的なそのときがイメージできません。おそらく、資本主義の崩壊くらいしか想定できないように思います。なので、具体的なそのときが来るまで、上記発想のインデックス投資家は損切りなど全く想定すらしないのです。
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コメント
いつも大変興味深く拝読いたしております。とても誠実な文章で共感がもてます。ありがとうございます。
私はここ1~2年、投資に目覚めた者ですが、特にここ数ヶ月、海外投資に目が行くようになったばかりの初心者です。
今回の大幅下落直前の最高値で海外ETFにフルインベストしてしまいました。世界株式の時価総額に一致させたポートフォリオで少なくとも30年以上の投資期間を想定しています。基本的に売りは考えていません。投資金額は生活に必要なお金以外の自己資金の全額(99.8%)です。
VMaxさんのブログを読んだり、他自分なりに勉強したすべてのことを考慮して、今の投資には全く後悔していないことに不思議な感覚さえ覚えます。さきほど「最高値でフルインベストしてしまいました」と記述しましたが、これも理論的に全く間違っていないという確信を持っていますので、たとえ時価総額が半分になってもそれほど悲観的にはならないのではないかとさえ思えます。これまで株価の動きに一喜一憂していた自分が馬鹿らしくなるほどです。
合理的根拠に基づいた投資方法は、いわゆる人間の弱い部分であるところの「感情」を見事にサポートしてくれます。VMaxさんのブログは私の人生にとてもいい影響を与えてくださる大変貴重な存在です。これからも末永く読ませていただきますのでどうぞよろしくお願い致します。(毎日でも更新してください!笑)
投稿: 愛読者より | 2007年8月13日 (月) 13時12分
「愛読者より」さん、コメントありがとうございます。
大変励みになるコメントをいただき、感謝です。
コメント全体を拝見して、個人的に「今の投資には全く後悔していない」というところがやはり重要だなと思います。
理論的に筋が通っているだけでなく、それに納得できて、無理なく続けていけることが本当に重要だと思います。
私も、急落に備えて投資可能資金を遊ばせておく機会損失を何度も経験して、今のスタイルに至っています。期待値正のビークルの急落を待つスタイルは、論理的にその正の期待値の分だけビハインドな投資方法であり、短期はともかく長期間にわたってトータルで成果を上げるのはかなり難しいと個人的に判断しています。
それでは、「愛読者より」さんの投資生活の成功を願っております。今後ともよろしくお願いします。
投稿: VMax | 2007年8月13日 (月) 20時13分
与太郎、浦島太郎氏から紹介受けて、訪問いたしました。
力のこもったサイト、流石だなと感じ入っております。
ETFはほんの少し所有しておりますが、収益あげるところまではいっておりません。
気長にぼちぼちとがスタンスですので、ゆっくり
と勉強していきたいと考えております。
以後、ご指導の程、よろしゅうにおたの申します。
投稿: はなまち | 2007年8月13日 (月) 23時42分
はなまちさん、はじめまして。
ご挨拶いただき、ありがとうございます。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。このブログでご参考にしていただけるところが何かしらありましたら幸いに思います。
投稿: VMax | 2007年8月15日 (水) 04時26分
お気に入り に登録して拝見しています。
今回のブログは理論的にもスバラシものでした。
私はすでにETF、投信歴も含めると10年超者ですが、基本的には海外株式の全てインデックスです。そしてまったくのバイ&ホールド派です。
しかしここ数年新たな楽しみが1つできました。
それは長いこの間にいろいろな大波がありました。そのたび実行しています。
米国が下がった翌日はまず日本株は下がるため、数日の大下げが続く時に、日本株ETF、または投信をややまとめ買いして、数日後必ず全部売却して小遣いを抜いています。当然、今回のサブプライムレート問題でもやっていますよ。
しかし、長期のバイ&ホールド分は宝のように触れず(利がのっており触れる必要はない)毎月一定額を買い続けています。
もうこの小遣い取りは癖になりやめられません。
もうすぐ定年ですが、定年まではこのスタイルでいこうと思っています。
いつも買うとき心の中では、最悪戻らぬときは、海外株と分散だ! と思いながら覚悟して買いますが、必ず何がしかの小遣いが入ります。
又、退職金は海外株式だけでなく、日本株、日本国債、海外債券、Wリートなどにも分散して、3年~5年程度の長期分割買いを計画しています。
このブログも参考に引き続き見せていただきます。
VMaxさんは私の投資スタイルと若干の違いがあるように思いますが、それも人10人寄れば10色の諺通りで参考になります。
われわれ年配者が、勉強にになることをこまめに書き続けていただければ心の支えとなり、ありがたいことです。
投稿: 名古屋孫在 | 2007年8月18日 (土) 09時35分
名古屋孫在さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
コメントを拝見し、長期国際分散投資のコアに、スイングトレードを織り交ぜて、趣味と実益を兼ね備えたアクセントをつけられているように理解いたしました。
個人投資家は、常時利益を他者から求められないので、今回のようなリスクイベントを何年でも待てるのが強みですね。
十人十色、投資は当人の主観的な感情的部分が結果に大きく影響を与えるものですから、リスクマネージメントがしっかりしている限り、ご当人にあったリスクの取り方で、継続的にリワードをとっていくのが最善と思います。
これからも、名古屋孫在さんの投資成果の良好なことを祈っております。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: VMax | 2007年8月18日 (土) 20時33分