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2007年9月 7日 (金)

為替の効率市場仮説

以下は、為替の効率市場仮説というべきか、無裁定原理というべきかよくわかりませんが、いかにも学者チックな、現実には必ずしも成立していない理論世界の論理に対して、どうも整合的に見えない現実の為替の現象について、当方がある掲示板でコメントしたものです。

本来ならば、このブログで書こうと思っていた内容ですが、たまたまある掲示板で議論されていたので、長々と書き込んでしまいました。もともとはDBVというETF(高金利通貨買い低金利通貨売り戦略)が、なぜ市場で長期的に利益が出続けるのか?、理論的には2通貨間の金利差は為替変動で相殺されて、2通貨のリターン期待値は同じになるはずなのに、そうならないのは何故なのかという疑問に対しての仮説提示をしたコメントになっています。

様々な書籍でも、この現象についての記述があり、高金利通貨が弱くなるはずが、過去の統計上では、逆に高金利通貨が強くなっているという長期の統計結果は、確か複数の書籍で記述されていたように記憶しています。

しかしながら、当方が以下で触れるような視点、すなわち、すべからく金融取引ではリスクの交換とそれに見合うと市場が考えるリスクプレミアムのやりとりがなされているのに、為替取引でそれがないというのはいかにも不自然であるように思える点、すなわち為替取引でもリスク交換とリスクプレミアム支払いのやり取りは存在しているのではないかという主張は、不勉強かもしれませんが、今までどこでも見つけたことがありません。

実際に、公社債市場では、デフォルトリスクの超長期の実際損失コスト統計結果と、そのデフォルトリスクテイクに伴いリスクテイカーが得る信用リスクスプレッドには、確か5倍から10倍程度の開きがあったと記憶しています。この世の中は、リスクアバースな世の中になっており、リスクを回避したければ、想定されるリスクがもたらす想定コスト期待値の5~10倍のリスクプレミアムをリスクテイカーに支払うことなしには、信用リスクを回避することができないのがこの世の中です。だからこそ、公社債にしろ、株式にしろ伝統的な資産のリスクを長期的にテイクし続ける者は、圧倒的な高確率で多額の無リスク資産超過リターンを手にすることになります。

為替取引においてのみ、そのようなリスクの移転とリスクプレミアムのやりとりがなく、学者が考えるような理想世界の取引になっているというのは、まことに不自然きわまりないと思うのです。

それでは、以下に掲示板に記した当方コメントを転載します。

//(以下転載)----------------------------------------------

以下はただの妄想、たわごとの類です。

もし、世界の基軸通貨(例えばアメリカUSD)と、世界のどこかの僻地の国で毎年財政は大赤字で、いつ国が革命や変乱等で消滅するかわからない状態で、かつ流通性が著しく劣っている通貨を取引するとしたらどうでしょう。

もしかしたら、USDを売って後者の国の通貨を買ってしまったら、明日デフォルトして、その通貨は紙切れになってしまうかもしれません。

この取引で、信用度の著しく低い通貨を売ってUSDを買う側と、USDを売って信用度の著しく低い国の通貨を買う側のリスクが同じとはとても思えません。

後者の人すなわち、世界で一番安全かもしれない通貨をわざわざ手放して、リスク満載の通貨を保有しなければならなくなる側は、より高いリスクを負う状態になる取引をすることに対して、その取引中で十分な見返りを求めたくなるのではないでしょうか?

すなわち、
  高金利通貨金利-低金利通貨金利≒将来為替変動期待値
ではなく、
  高金利通貨金利-低金利通貨金利≒将来為替変動期待値+(取引中のリスク大取引サイドのリスクプレミアム)

が成立しているのではないでしょうか。

すなわち、高金利通貨は一般に高リスク通貨であることが多く、より高いリスクのある通貨を長い間持つことの見返りが、取引中にリスクプレミアムとして内在されており、高金利通貨買い低金利通貨売りポジションを長い間維持すると、このリスクプレミアムが実現して、利益が発生するのではないかと疑います。

これは、株式を売る人がその株式を買い取る人に対し、確率的に将来、その株式が無リスクリターン超過スプレッドを実現させるであろう安い価格で売り渡さざるを得ないことと似ています。リスク満載の通貨からとてつもなく安全な通貨に乗り換えるには、相手側にその安全に見合った安全料を払う必要が発生するのではないでしょうか。

コーポレートボンド(公社債)でも、リスクを負う側が得る信用リスクプレミアムは、たいていその負うリスクがもたらす歴史的、統計的な実際平均損失幅の何倍ものスプレッドになっています。なので、そういった伝統的危険資産を長期的に保有し続けると、必然的に無リスクビークルリターンを明確に上回るリターン結果となるわけです。

デフォルトリスクは時間に比例しますので、通貨を持つ長さにかかわらず、この相対通貨信用度の差がもたらす信用リスクネットスプレッドは(もし存在しているとすれば)%あるいはbps(0.01%)単位で、表されることになるのではないかと思います。

とてもこれだけで説明できるとは思えませんし、正しいかどうかもさっぱりわかりませんが、もしかしたら高金利通貨買い低金利通貨売りで過去、長期的に利益が出てきた要因の1つくらいにはなっているかもしれません。

なお、DBVは高金利通貨買い低金利通貨売りのポジションを原則としてレバレッジ2倍で持ち続ける戦略のようです。(既出かもしれませんが念のため)

ちなみに、インフレ連動債の金利構造はざっくりいってこんな感じになっています。

インフレ連動債トータルリターン≒インフレ率ゼロの場合の当該債券利回り+インフレ連動債調整超過インフレリターン

すなわち、金利=期待インフレ率ではなく、金利=消費を先送りすることに対する超過プレミアム+期待インフレ率(正確にはインフレリスクプレミアム)となっています。

人はインフレ率ゼロの場合にも、将来まで消費を我慢することに対して見返りを求めるようで、米国のインフレ連動債ではこの消費先送りの見返りプレミアムは歴史的に1~3%程度で推移しているようです。しかしながら、もし上の理屈が正しければ、この1~3%程度の消費我慢プレミアムの中に、実は通貨に内在する絶対信用リスクプレミアムが含まれているのかもしれません。

//(転載終わり)---------------------------------------------

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コメント

いつもお世話になります、ROM人であります。

少し気になったので書きこみをさせていただきます。

この議論では低金利通貨(例えば円とか)と高金利通貨(ドルとか)の比較だけでなくまともに支払いをしてくれる普通の国とデフォルト(対外支払い停止)常習国などのリスクプレミアムを混ぜて議論してるのではないでしょうか。

例えばソブリン中のソブリンとも言える米日英独仏の諸国は20世紀中では一度もデフォルトしたことがありません(唯一の例外はヒトラー時代の独のみ。これも戦後には返済している。ただモラトリアム 支払猶予はある)この信用を背景にこれらの国の国債にはリスクプレミアムがないのでしょうから上乗せを要求しようが無いのだと思います。ゆえにこういった国の間の通貨では長期的にはインフレ格差でほぼ説明付くのかと。(確か30年ほど前から日米の間の金利格差は年平均3%程度、インフレ格差が3%弱、為替下落率も3%弱。差し引き1%弱は儲かるがそんなに多くない)

これに対して信用リスクとリスクプレミアムとインフレ期待をごちゃ混ぜにしたデフォルト国などに貸す場合は大きなプレミアムをつけた値段で取引されるでしょうからデフォルトや外部環境の変化がない限りはプレミアムを享受し続け儲かると思います。もしこのデフォルト率よりもリスクプレミアムが常時大きいならお説の通り長期間になればなるほど儲かるでしょう。でも個人的にはこの取引はすでに一般的なキャリートレードのイメージ(円ドルとか円NZドルとか)から逸脱しているような気がしますがいかがでしょうか。

通貨で最終的にたくさん儲けたと言えるのは海外投資ブームによる為替安の前に買って為替と金利格差で糊代を付けた人だけだと思います。

投稿: ROM人 | 2007年9月 7日 (金) 05時02分

ROM人さん、いつもお世話になります。

今回のエントリーでは世界の基軸通貨USDと明日にも消滅するかもしれない辺境の国の通貨を交換する例を提示しましたが、実はこの例は現実的ではないと思います。
実際は、「そんなあやしい通貨に交換したい人はいない」が真実だと思います。ジム・ロジャースの本を読むと、自分の国の通貨で代金が支払われるのをその国の商売人や役人にかたくなに拒まれる国の事例が山ほど出てきます。アルゼンチンも自分の資産はドルで持つのが常識となっており、最も直近のこの国のデフォルトでも、国民の痛みはとても小さかったと聞きます。

このエントリーでも、債券市場でも、歴史的、統計的なデフォルト損失率に比して、市場でつく信用リスクスプレッドはその5~10倍であることに触れています。

債券市場は、分散可能な市場です。デフォルトしてゼロになるか、デフォルトせずに金利を得られるか、二つに一つのばくち状態を、何百という異なる銘柄でポートフォリオを構成することにより解消し、圧倒的高確率でプラスで投資を終わらせることができるようにデザインすることが可能な市場です。そんな市場ですら、統計的なリスク額の10倍ものスプレッドでリスクが取引されているという事実と、そんな分散効果は全く望むべくもなく、自国の脆弱な通貨を一瞬たりとも保有することをかたくなに拒否しつづける人たちの存在は、何かを語りかけているようには思えないでしょうか。

私は、分散不能なリスクにつけられる統計的なリスクに対するリスクプレミアム倍率は、とてつもなく大きいのではと疑っています。すなわち、分散可能な債券市場でもこの倍率が10倍だったりするのだから、分散不能な通貨の場合は、この倍率は何十倍にもなっているのではないかと推測します。
だから、自国がとても脆弱な国の場合は、この主観的なリスクプレミアムがあまりにも多額になりすぎて、取引が成立しないということになるのではないでしょうか。

この、主観的な、リスクにつくリスクプレミアム倍率の特質についての個人的な仮説に基づき、先進10カ国の通貨の中でも、統計的、歴史的なリスク額は無視できるほど小さくとも、それに掛け算されるリスクプレミアム倍率が多大なため、結果的に意味ある水準の信用リスクネットスプレッドが実は通貨間でやりとりされているのではなかろうかと疑い、このエントリーとなっています。

しかしながら、この仮説は証明する方法がありません。世の中にカウンターパーティリスクのないビークルが存在しない以上、市場がつける国家の信用リスクスプレッドを測定する方法もなく、例えばUSDにつけられる金利の内訳がどうなっているのかは、誰にもわからないと思います。

なので、この話題、いくら話しても、検証不能だと思いますので、不毛になると思います。

まあ、ただの妄想、たわごとだと思って聞き流していただければ幸いです。

以上、よろしくお願いいたします。

投稿: VMax | 2007年9月 8日 (土) 16時28分

お返事ありがとうございます。

アルゼンチンの話はとても教訓のある話ですね。結局ハードカレンシー以外の通貨はトイレットペーパーと紙一重の存在だと思い知らされます。

それと通貨分散と潜在的プレミアムの方は確かに自国の国債価格ですらよく分からないのに社債含みの他国通貨の債券ではお手上げですね。ありそうでよく分からない問題ということですか・・・・まあ時には価値ある債券がただみたいな価格であったりもするそうですから(今のサブプライム絡みの証券のように)その時々ですかね。

変な質問して申し訳ありませんでした。

投稿: ROM人 | 2007年9月 9日 (日) 02時49分

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