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2007年12月28日 (金)

格差拡大は政治のせいか?

何だか唐突な題名ですが、ほんの数時間のうちに相反する意見を目にしましたので、テーマとして取り上げてみました。

今日の日経新聞の夕刊の十字路に、以下のような文章がありました。

『時の小泉政権が残した負の遺産は大きい。「格差」が顕在化し、収入が増加しない一方で、諸物価の上昇が続いている。』

他方、「定年後マネーは二極化する」(方波見寧氏著)という書籍のはしがきには以下のような文章がありました。ちょっと長いですが引用します。

『米国でも戦後の1950年代から60年代頃までは、かつての日本の「一億総中流社会」のような、国と企業の保護が手厚く、国民の7割近くが芝生の庭がある郊外の一軒家に住む、豊かな中流階級社会を作っていました。

それが、今日のような格差社会に変ぼうしたのは、米国の大企業の技術水準が日本やドイツの企業に追いつかれたことが原因で、大企業が、国際的な大競争を繰り広げる過程で生産性を上げるため、解雇や低賃金という効率化を行ったことに始まります。高賃金・高コストの先進国企業の技術水準が、低賃金・低コストの開発途上国企業の技術水準に追い付かれれば、両者の賃金・コストは、同じ水準に向けて調整されます。

その結果、かつては7割近くもいた豊かな中流階級は、転職と低賃金を余儀なくされ、大部分が下流社会へと落ち込んでいきました。こうして彼らの退職金と貯蓄が大きく落ち込んだ結果、年金制度が揺らぎ、2000年には、退職者の80%が金銭的に破綻しているという深刻な事態に至ったのです。これが米国における格差社会の進行プロセスです。

(中略)

一方日本でも、95年頃から一億総中流社会が崩れ始め、さらに05年頃から格差社会への突入がはっきりしてきました。その要因は、日本の大企業の技術水準が中国などのアジア諸国に追いつかれたことにあります。競争を繰り広げる過程で大企業において低賃金や解雇が見られる点では、20~30年前の米国のプロセスによく似ています。』

この文章は、日本における格差拡大は、政治のせいではないと主張しています。私は、この後者の書籍の主張に一票入れたいと思います。

格差拡大が日本の中の、閉じた問題ではないのならば、日本の中での徴税と再分配制度で対応しても、問題はなんら解決しません。進化する新興国群のモノやサービスにもびくともしない高付加価値を生み出す人と企業が、酷税によって地獄に一緒に引きずり込まれるのを逃れるために海外脱出して、あとはどうしようもなく疲弊した国が残るだけです。

国や国内企業は、新興国群が出せない高付加価値を生み出し、国際分業の一部をしっかり担える得意技を磨くことに必死にならなければならないでしょうし、個人も、日本企業だけではなく、日本人の将来を脅かしかねない新興国群その他の諸外国企業のエクスポージャーも合わせ持って、日本国の将来に対するヘッジポートフォリオを構築する必要があると思います。

諸物価が上昇していることも、全く同じ枠組みで理解できることは、当ブログをごらんになっているような方ならば、常識的な内容だと思います。

最近の政治の世界を見てみても、「格差拡大は悪」とばかりに、日本国民全般が他力本願に走っているように思えてなりません。上記の著書に指摘されるまでもなく、日本国民の一人一人が、複利を味方につける長期の国際分散投資等によって、自前で道を切り開く必要があると思います。

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コメント

時間がかかっても日本人が自分達で気が付いて、現状を変えたいと思うようになるまで待つしかないと思いますね。
まず最初にやらないといけないのは、幼年期からの徹底した投資教育でしょう。

日本人の金儲けアレルギーの源流は、江戸時代の士農工商。
もしかしたらそれ以前にまでに遡るのではないかと思うのですが。
さしずめ現在の士は何も生み出さないのに、国家に胡坐をかいているだけの行政。
農は補助金漬けの小作農。
モノ作りこそ国家とされ、金儲けが最も卑しいというわけです。

金儲けを否定してきた国の歴史が相手ですから、手強いとしか言いようがない。
それでもVmaxさんのところのような良質なブログを見る人が増えれば。
少しずつでも日本人は変わると思います。
それでは良いお年を。

投稿: 猫戦車 | 2007年12月30日 (日) 21時30分

猫戦車さん、コメントありがとうございます。

確かに、私の限られた範囲の経験でしかありませんが、その経験から言っても、外国人と比較して金儲けを卑しむ気持ちは、日本独特な感じがします。

細々とではありますが、お褒めいただいた言葉に負けないような内容を書き続けられればと思っています。

それでは、来年もよろしくお願いいたします。

よいお年を。

投稿: VMax | 2007年12月30日 (日) 23時02分

いつも、ETFの有益情報ありがとうございます。おかげ様でSPYオンリーから脱出、一応効率的ポートフォリオは完成、後はカウチポテトを決め込んでおります。お楽しみはン年後?
格差は政治のせいではありません、そんなこと自分の頭で考えれば分かること、ですが皆その現実を認めたくないから、安易な犯人探しで満足しているのでしょう。
当方、その泥舟に乗せられるのは堪らんと10年前に日本を脱出しました。当時は奇人変人扱いでしたが、今やっと誰にも現実が見えて来たのでは?冷たい言い方ですが、とにかく、自分だけでも助かりましょう。この荒波は他人を助ける余裕を許すほど甘くないです。

投稿: meri | 2007年12月31日 (月) 17時10分

meriさん、コメントありがとうございます。

このブログも多少なりとも人様のお役に立てているとすれば、うれしい限りです。

10年前から具体的なアクションを起こされていたとは、すごい先見の明だと思います。

他の分野の話でもだいたいそうですが、誰の目にも明らかになってきても、茹でられるカエルのように、何のアクションも取れないのが通常の典型的なパターンだと思います。

そうはなりたくないものです。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします。良いお年を。

投稿: VMax | 2007年12月31日 (月) 19時41分

(この記事のコメントとして不適切かもしれませんが…)
あけましておめでとうございます。
昨年はVmaxさんから多くのことを学ばせていただきました。
今年もよろしくお願いします。

投稿: 水瀬 ケンイチ | 2008年1月 1日 (火) 12時41分

水瀬さん、あけましておめでとうございます。

昨年中も大変お世話になり、ありがとうございました。

今年も(なるべくなら)見ていただく方々にご参考にしていただけるような良い内容のものを書けたら(いいな)と思っております。

それでは、今年もよろしくお願いいたします。

投稿: VMax | 2008年1月 1日 (火) 15時38分

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