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2012年7月

2012年7月12日 (木)

アマゾンのスマートフォン戦略

当方が長らく着目しているスマートフォン、タブレット市場で最近、にわかに話題になってきているのが、表題のアマゾンのスマートフォン市場の参入のうわさです。

例えばAsusとの端末製造協業の話だとか、関連特許の市場からの購入や、他社携帯端末関連幹部の採用といった話が今、ニュースで踊っています。

以前は単なる噂話レベルであったのが、状況証拠的な情報が集まってきて、だんだん信憑性が高まっている状況だと思います。

この件に関連し、あまりUSでも日本でも話に挙がっていないのが、これが実質はGoogleAndroid陣営対Amazonの戦いであると考えられるという点です。

タブレットの話でも以前書いた話ですが、Amazonがもし、古いAndroidOSを用いて自前アプリ市場と自前の音楽、ビデオ、電子書籍等エコシステムを擁した上で便利な総合エコシステムを構築してしまうと、お客もアプリのデベロッパーも広告主も、それぞれの利益のために、GoogleのAndroidではなくAmazonの古いAndroidベースのエコシステムを目指すことになり、ここで少なくともGoogleのOS供給会社とインターネット上の広告元締めとしての立場は崩壊し、Googleがタブレットの世界でOSを真剣に開発、改善して市場浸透していく意味を失います。

GoogleのNexus7は、可能性のあるこの未来を回避するための、Googleの最大限の努力の結果だと思います。

Googleが7インチタブレットを目指したのは、そのAmazonによる独自エコシステム構築、拡大という、Googleにとって最悪の未来を回避するための最大限の努力であって、自社戦略の死という結論を回避するための、ある意味必然的なディフェンシブムーブと言えると思います。

他方、Amazonにとっては、別にGoogle殺しのためにわざわざこのような行動を採っているわけでは当然なく、単にGoogleやAppleに自社の将来のデジタルビジネスの命運をゆだねることになる、受動的な未来を回避したいという一心だと思います。

だから、リアクティブなタブレット分野のGoogleのアクションとは違って、Amazonの7インチタブレットへの当初フォーカスは、Googleだけではなくタブレット市場を占拠している先発企業のAppleをもターゲットとしたものだったと思います。価格を主要なキーコンペティティブアドバンテージとして、Amazonの体力の許す限りのタブレット市場の制覇をもくろんだはずです。

しかしながら、その結果は、Amazon幹部の望むほどの市場の制覇にはつながっておらず、Amazonの現在のKindleFire端末の売上レベルでは、自社の保有する燃焼可能な資本を使いきることすらできない状況だと推測します。

これでは、自らが回避したかったデジタル関連販売ビジネスの他社による制覇が実現してしまい、Amazonにとってまことに困った未来が待っています。

そこで、次の一手ですが、この一手をインチダウンのスマートフォンの方向に進むのは、Amazonにとって至極現実的でスマートな判断ではないかと個人的に考えます。

以下にその理由を記します。

(理由その1)

アマゾンが使用するであろう、古いAndroidOSにはそれに適した数多くのアプリが存在し、開発者にとって、最小限の努力でAmazonのアプリエコシステムに参加できる下地があると思います。タブレットの世界では、大きな画面に適したアプリがそもそもAndroidエコシステムには実質的に存在せず、Appleにタブレット分野でアプリの世界で戦いを挑むためには、優れたタブレッド用アプリを、AndroidOSのアプリ開発者に、流用でなく1から作り上げてもらう必要があります。これは、おそらくはある意味、無理難題で敷居の高すぎる話ではないかと思います。この観点で言うとスマートフォンの世界はAmazonにとって非常に敷居が低く、相対的に御しやすい状況にあると思います。AndroidのスマートフォンはOSが分断化していて、最新AndroidOSに最適化したアプリよりも、古くて今の市場で最もメジャーなAndroidOSバージョンに最適化されているアプリが、最も多く市場に存在しているだろうと推測されることもAmazonにとって追い風だと思います。AndroidOSの深刻な断片化がAmazonにとっては有利に働くわけです。

(理由その2)

世の中には価格が最も重要で、そのためには最新のOS機能だとか最新のサービス等をあきらめても良い、あるいはあきらめざるを得ないという顧客の市場が必ず存在します。しかもスマートフォンの市場では、この市場が果てしなく大きいことはもう証明されている事項だと思います。先進国でも貧富の差の激しい国々の下位市場や、新興国市場等、Amazonが価格で勝負しようとしたときには、このフロンティアは果てしなく広大です。Amazonが資本を燃やしてデジタル市場の顧客ベースを広げようとしたときには、ある意味最適な採り得る方向性ではないかと思います。

上でAmazonがスマートフォンに向かう合理性について、大きく2つの理由を挙げましたが、このような理由によりAmazonのこの戦略の方向性は同社にとって非常に親和的なものになっていると思います。

他方で、当然のことながら、障害やハードルもあると思います。キャリアとの関係や顧客へのリーチの問題、タブレットに比したスマートフォンのデジタルコンテンツの購買傾向の弱さ等といった少なくないハードルをクリアしていく必要がAmazonにはあり、決して簡単なことではないと思います。それでも、Amazonにとっては、燃焼可能な資本は全て燃焼させて、自社のモバイル顧客ベースを広げなければ、彼らの将来はお寒いものになってしまうリスク満載なのですから、出来るだけ確実に彼らの燃焼可能な資本を燃焼させて顧客ベースを広げることのできる可能性の最も高い手段を選ぶのは、非常に合理的な選択、判断だと思います。

他方、Googleにとっては、タブレットで直面した、AndroidOSを使われてかつGoogleをハブられる形でのエコシステムを他社に構築されるリスクに、スマートフォンの分野でも直面することになるわけです。ますます、GooglePlay対Amazonエコシステムの戦いを、将来目にすることができること請け合いだと思います。

誰でも利用可能なフリーなOSとして市場拡大を図った戦略のコインの裏側に、自由であるがゆえに、OS開発会社を完全にハブり、OS開発会社にとって何のメリットの無い形のエコシステムを他社がそこで構築する自由も存在します。これはまさに皮肉であり、コインの表裏と言うのが最適な事象だと思います。

Amazonは今後はタブレットではなく、スマートフォンの世界で注目に値する会社になってきていると思います。将来の市場変動の可能性とポテンシャルを有しており、今後の動向が楽しみです。

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2012年7月 5日 (木)

Microsoftタブレットの矛盾とGalaxyNexusのUSでの販売差し止め

Microsoftタブレットのコンセプトの矛盾について、前にエントリーを書きましたが、同じような議論を展開しているUS記事がやはり出てきているようです。

http://www.thestreet.com/story/11606376/1/windows-8-redmond-we-have-a-problem.html?puc=yahoo&cm_ven=YAHOO

仕事に使えるタブレットが膝の上で使えない矛盾が、上記記事中でも指摘されています。その他のポイントについても、Outlookに関するポイント等、興味深い記事です。

そういえば、やはりGoogleはAppleのSiriを追随してきましたね。全くもって予想通りの展開です。これからGoogleがSiriと競合しながら、どうやって自身のビジネスモデルを壊さない道を模索していくのか、見ものだと考えています。

これでGoogle陣営は、キャリアのドコモ、端末製造のSamsung(と開発中画面がリークされているHTC)、およびOS会社のGoogleの全ての関係者がAppleのSiriを追随してきたことになります。MeTooCopyが足元ではソフトウェア分野に移っていることを如実に物語っている事象だと思います。

面白いのが、足元でSamsungのタブレットとスマートフォンのGalaxyNexusがUSで販売差し止めになっていますが、そのうちのGalaxyNexusの差し止めの直接の原因となっているのがAppleのSiriに関係する特許であることです。USの裁判ではそれ以外の複数のAppleの特許もSamsungによって侵害されている可能性が高いとされているのですが、そのうち現在の販売の現場で現実の差別化要因として機能していることが見込まれる最新のソフトウェア分野でのこのMeTooCopyに限って、侵害の可能性が与える影響を看過出来ないとして、商品差し止めに至っているわけです。

この裁判所の判断は、「USの特許制度は壊れている」と主張する、Googleをはじめとする多くの関係者の主張について、その妥当性のありかを考えさせる結果となっていると思います。US裁判所は特許が有効であることが見込まれるだけではなく、その侵害がマーケットに与える影響をも考え合わせた上で商品差し止めすべきか否かを判断しています。

Appleは同社の端末でSiri機能を実現するために企業買収をし、時間をかけてデータセンター等のインフラ整備を含む開発準備を行っています。同社は長期のロードマップを持っていて、それに従って着々と準備をしてきただろうことは、状況証拠からも明らかです。

翻って、MeToo企業群はどうでしょうか?ドコモ、Samsung、HTC、Googleと、先発企業が時代の先を見てこつこつと準備して導入した機能を、ローンチを見るや否や、皆、臆面もなくMeTooCopyに走っています。

これが市場の常とは言え、やはり醜い。

もうひとつの醜い姿であり、かつ皮肉であるのは、「USの特許制度は壊れている」と主張するGoogleや、Samsung、HTCといった企業群が、その壊れているかもしれない特許制度ですら想定しなかった、標準特許によるライバル企業商品の差し止めに走っているところです。

自らが、どの企業も差別せずライセンスすると約束した上で標準特許採用された特許を、よりにもよって自ら課した約束を反故にする形で、ライバル会社商品差し止めのための武器として使用しています。

言うまでもありませんが、これら特許に価値があるのは、標準特許採用されたからであって、特許内容自体が生み出している価値ではありません。「自社はもしこの特許が標準特許として業界に採用されたら、気に入らない企業の商品をこの特許を盾にして差し止めに動く」と宣誓していれば、そんな特許は業界標準としては決して採用されず、競合する別の特許が業界に標準として採用されていただろうことは至極明らかなことです。

だから、EUもUS当局も、モトローラ(=Google)やサムソンを独禁法違反の疑いで調査中なわけです。

スマートフォンとタブレットの分野では今、特許の世界で風雲急を告げており、面白い展開を見せています。ちょっと目が離せません。

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