マイナス金利が日本に適用されてからはや数ヶ月、MMFの運用資金受け入れ停止やら投資信託の現金部分の手数料徴収等、その影響は徐々にここそこに現れ始めているように思います。あちこちでこの伝統的でない政策の起こり得る行く末についての議論もたたかわされているものと推測します。
しかしながら、当方がその議論の内容を斜めに読んでいる限りにおいて、今のところどこでも議論されていないように思える点が一点あります。誰も語っていないと思えるだけに、もしかしたら議論を提示する価値があるかもしれないと思い、今日はこの点についてつぶやいてみようと思います。
当方が、このマイナス金利で着目している点の一つが、持てるものと持たざるものの立場の逆転です。ただし、マイナス金利で借りる側と貸す側の逆転について、すなわちマイナス金利が進展すれば、いずれ実際にお金を貸す側が利子を払って、お金を借りる側が利子を受け取ることになるという真逆の現象については、マイナス金利の帰結として非常に明らかなことであって、その将来想定される世界はすでにあちこちで議論されていると思いますし、この至極明白なポイントについて改めて言及したいわけではありません。
当方が今回のエントリーで言及したいのは上の逆転現象ではなく、今まではお金を集めることにより有利な運用機会を得ることができたという運用の世界の優位性が、現状のペーパーマネーの世界でのマイナス金利という条件によって、逆転し始めているのではないかということです。
例えば、個人の手元に10万円があれば、これを財布の中に入れておけばマイナス金利の支払いを回避することは簡単にできます。これが一人一人の10万円を集めて運用するMMFになるとどうでしょうか?MMFでは流動性の高いビークルへの投資によってマイナス金利の影響を避けることが途端に困難になります。これは実際にマイナス金利政策が採られて以降、相次いで運用資金受け入れ停止に陥ったMMFが出現したことで明らかな通りです。10万円や100万円くらいのオーダーであれば、財布の中に入れておくか本棚の本の間にでも挟んでおけばマイナス金利の影響を受けずにすませるのは簡単なのに、多くの資金が集まった途端、このマイナス金利の影響を回避するのが極めて困難になってしまいます。
この状況は、通常の正の金利の世界で起こることとは真逆だと思います。運用の世界では資金を集めれば集めるほど効率的な運用が可能で、かつ小口であれば決して得ることはできなかった投資機会を得ることも可能になります。この状況と優位性がマイナス金利の部分では逆転してしまうわけです。なので、ヨーロッパのどこかの国のようにマイナス金利の幅が1%を超えてきたり、銀行等の機関がマイナス金利の経営に与えるインパクトに耐え切れず、最初は大口法人顧客、次に個人顧客の口座への手数料徴収といった形で、次々とマイナス金利の影響を末端に転嫁するようになっていけば、この逆転現象は資産運用の世界の隅々までに行き渡るのではないかと思います。
そういう将来世界が実現するかどうかはなお不明ですが、もしそこまでたどり着くとすると、Fixed Interestの運用の世界は資金を集めれば集めるほど不利になると思います。銀行預金はマイナスリターンであっても資金保全したい大口だけが残り、投資信託もFixed Incomeのものは存在意義を失い消えて無くなり、生命保険も非常に高い死亡保障効果や高額先進医療等、いざというときの支払いが保険料に対して非常に高額なものしか価値が無くなり、売れなくなるといったことが起こるのではないでしょうか。
これが、将来の我々の運用にどう影響していくことになるのか、はなはだ不透明な話ですが、そのような世界では構築するポートフォリオや運用の考え方も、今まで我々が当然のこととしていた前提とはかなり異なるものになるかもしれません。
個人的に、マイナス金利の行く末からはちょっと目が離せません。
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