今日の日経新聞の朝刊一面に「日本株出遅れ」という記事で、世界の主要市場で日本株の今年のパフォーマンスが20国中、19位であることを取り上げています。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070930AT2D2900429092007.html
以前、日経新聞が7月に同様な比較記事を書いたときに、当ブログでそれを取り上げ、実は通貨を揃えれば日本のパフォーマンスは最下位であること、投資家の手取りのリターンを考えるときには、通貨を揃えて比較しないと全く意味がないことに触れました。
http://max999.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/test.html
このポイントは、今回の比較記事でも生きています。
例えば、米国市場ETFで各国市場ETFのパフォーマンスの比較を年初来で行うと以下のようになり、今回も日本は圧倒的な最下位です。
http://finance.yahoo.com/charts#chart10:symbol=ewj;range=20070103,20070928;compare=fxi+ewy+ewh+ewz+inp+ews;charttype=line;crosshair=on;logscale=on;source=undefined
http://finance.yahoo.com/charts#chart23:symbol=ewj;range=20070103,20070928;compare=ewt+eza+ewg+ewa+ivv+ewc+ewn;charttype=line;crosshair=on;logscale=on;source=undefined
http://finance.yahoo.com/charts#chart36:symbol=ewj;range=20070103,20070928;compare=ewd+ewu+ewq+ewp+ewl+ewi;charttype=line;crosshair=on;logscale=on;source=undefined
(最初のグラフが、記事の1位~6位、二番目が記事の7位から13位、3番目が14位から20位の国のパフォーマンスを日本のそれと比べています。なお、この比較では中国本土株の代わりに、香港市場上場中国株であるFXIを用いています。)
今も、年初に目をつぶって今年の投資国を選べば、そのリターンは日本株よりはるかに良かったという状態は継続しているわけです。
これは、日経新聞が言うように、日本株が「出遅れ」なのでしょうか?
例えば、日本株出遅れの要因の1つとして囁かれている、郵政の日本株売り(そして、10月民営化後からの日本株買い期待)があります。
10年~30年といった長期投資、そしてバイアンドホールドの国際分散投資を指向している場合は、ある意見や情報が、その株式の本源的な価値にかかわる情報か、そうではなく市場のセンチメント(市場の割高割安)にかかる情報でしかないのかというのは、しっかりと見極める必要があると思います。
なぜなら、市場は時に割安に売り叩かれ、また割高に買い上げられたりしますが、超長期の継続保有においては、その市場のアップダウン要因は投資成果にはまったくといってよいほど影響を与えないからです。(このポイントは最近のJ.ボーグル氏の著書にも書かれていたようですね。)
超長期の運用においては、そのような市場のセンチメントの上げ下げ要因はきれいに消え、その国の市場のそれぞれの企業群が利益を上げたその能力に株式市場パフォーマンス結果は近似します。
100円しか価値のないりんごが1000円で取引されるようなバブル状態も、逆に10円でしか取引されない恐慌状態も、長続きはしないわけです。
そこで、今回は、長期投資家にとっての本源的な価値に着目する目的のために、USのisharesのETFサイトにいって、8月末のデータからUS市場の各国市場ETFのROEをざっくり計算してみました。ROEはおおまかに表現して、株主資本を毎年どれだけの率で回しているかという指標になります。例えば、ROEが20%で回っているのに、株式が-10%のリターンを示し続ければ、あっというまに株主資本が株価を超えてしまいますので、合理的な取引市場では、長期的にはそのような状態は継続できません。逆にいうと、長期的に見れば、その国の株式の実現するROEリターンは株式リターンの源泉となっているとも言えると思います。ROEがその国の株式群の本源的な価値を測る指標になっているものと考えられるわけです。
その計算結果は以下の通りでした。
香港上場中国株:18.3%
韓国:14.0%
香港:25.8%
シンガポール:19.0%
台湾:18.5%
南アフリカ:25.3%
ドイツ:14.4%
オーストラリア:23.0%
アメリカ:20.6%
カナダ:15.8%
オランダ:21.6%
スウェーデン:29.3%
英国:25.6%
フランス:14.5%
スペイン:25.0%
スイス:21.0%
イタリア:15.3%
日本:9.8%
(ブラジル株ETFはデータが無かったため、またインドはisharesがUS市場でインド株ETFを販売していないため、その計算結果を載せていません。)
日本のEWJのETFのROEだけが一桁の値で、あとの全ての国のETFのROEが軽く二桁(全ての国が14%以上)になっています。
本源的価値に着目すれば、もし、日本とその他各国の長期の株式市場の企業群の実力が、この足元のROEの計算結果通りの傾向であったとしたら、日本株の長期のパフォーマンスが対各国比で優れないのも、ある意味妥当な結果なのではないかと思います。
マーケットタイミングというゼロサムに賭ける投資家はともかく、そのゼロサムゲームに参加しない意志を貫こうとする長期投資家にとっては、本源的な価値に関係することと、関係しないことをきちんとより分けていく姿勢が、その投資目的を貫徹させるためには、重要なことだと思います。
個人的には、今の足元の日本の株式会社群の出力(ROE)が、不景気その他の要因で、実力を大きく下回った異常値を示しているとは思えません。
したがって、日経新聞の記述に対する上記分析からの当方意見は、「日本株は出遅れているのではなく、実力通りのパフォーマンスを、今年も各国対比で示しているにすぎない可能性が高い。」というものになります。
やっと、結論にたどり着きました。今後、郵政が日本株を狂ったように買い上げようとも、全ての株はいずれ本源的価値に収束するのですから、ゼロサムゲーム(実際はコスト分だけマイナスサムゲーム)に参加することを止めた長期投資家である当方は、今までと同じく、本源的な価値のあやしい日本株に自身の資産の多くを割り当てることはないと思います。
『数ヶ月前から拝読させていただいてます。「インフレの芽?」もとても興味深いです。さわかみ氏ははっきりと「これからインフレになるから、今は株を買うべし。」とレポートで断言調。
初心者質問で恐縮ですが、まだら模様でインフレとなると、物価連動国債ファンドはどのように捉えたらよろしいのでしょうか。分散候補の一つに「未来予想」というファンドもどうかと考えていたのですが・・。宜しくお願いします。』
物価連動国債は、庶民の必要生活物資の物価だけを捕らえることはできず、全体の物価しか捕らえられないと思いますので、このようなまだら模様のインフレをヘッジすることは残念ながらできないと思います。
また、日本国の発行する物価連動国債は、元本保証がない、すなわち、発行時よりも償還時のCPIが小さくなっていると、償還金が元本を割ってしまうという、他の先進各国のインフレ連動国債にはない、不利な特徴があります。
澤上氏の想定されているかもしれない、全体物価が明らかに上昇していくようなはっきりした将来インフレであれば、そんな心配をする必要はないと思いますが、現状のCPIはゼロ近辺を這っている状況だと思いますので、今のところはなかなか日本の物価連動国債ファンドは妙味が薄いのではと、個人的には感じます。
ただし、今起こっている物価値上げは、主に石油価格や資源、穀物など原材料価格の上昇が起因となっているように見えます。日本企業も売上減少につながりそうでずっと値上げができずにがまんしていたのが、とうとう耐えられずに次々と値上げに走り始めているように見えます。
もともとが、主に中国やその他の新興国の台頭によってこれら価格上昇がもたらされており、またこれからは、これら新興国は経済力の高まった新興消費国としても台頭してくるものと思います。このような背景を考えると、物価上昇の流れはこれからも止まらず、広範囲に広がり、加速していく可能性が十分あり得ると思います。
内外株式を少しでも含んだポートフォリオを構築し、長期に持続する、伝統的なインフレヘッジのための投資態度はやはり有効なのではないでしょうか。そのポートフォリオリスクが許容できなければ、言及されているような物価連動国債ファンドの買い時を、CPIの動向をウォッチし続けながら探り、明確な上昇トレンドを確認した後にエントリーするのがよいのではと思います。
残念ながら、現状の日本の物価連動国債ファンドは信託報酬も高く、販売手数料も結構かかり、また元本保証もない世界では特殊な国債に投資するビークルになっていますので、インフレデフレにかかわらず、一生もので保有し続けることのできるビークルにはなっていないと思います。このような状況では、ある程度タイミングビークルとして使用せざるを得ない商品だと思います。
為替リスクに十分なリスク許容度があれば、米国インフレ連動国債ETFであるTIPや、将来US市場で販売される予定の、米国除く世界インフレ連動国債ETFを持つのがよいと思います。これなら、一生ものでポートフォリオに組み込んでもよいのではと、個人的に考えています。
ただし、前者は楽天証券で既に取扱い中ですが、後者はまだUS市場でもデビューしていない代物ですので、日本の投資家が簡単にアクセス可能になるのはまだまだ先になると思います。