日経電子版に標題のETF新商品記事が出ています。
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C889DE1EAE7E4EAE3EAE2E2E6E2E0E0E2E3E09797EAE2E2E2
さっそくこの記事に出ているETFの基になっている東証の指数がどんなものか見てきました。
指数構成方法をざっと読んで当方が理解した範囲では、この指数は配当込みTOPIXとキャッシュに投資され、TOPIXへの投資割合は、当該TOPIX指数の直近100日間の年率換算ボラティリティを基に、全体投資資産のボラティリティ値を事前に定めた一定率(例えば5%等)に保つように決められ、継続的、動的にこの割合がリバランスされていくしくみのようです。計算式から、おそらくはこのTOPIXへの投資割合はDailyでリバランスされるのでしょう。(素人の斜め読みでの解釈ですので、もし上記認識に間違いがありましたら、ご容赦願います。)
いわゆるリスク資産に対するボラティリティコントロールの仕組みで、例えば直近100日間のヒストリカルボラティリティ(年率換算)が20%であれば、上記の変動率5%の指数上では、TOPIXに25%、キャッシュに75%投資されることになります。大体、日本株式の平均的な年率ボラティリティ数値が20%前後ですので、資産の4分の1が日本株式に、4分の3がキャッシュに投資されるのが、この指数の平時の姿だろうと思います。
他方、リーマンショック後のような特殊な状況では、直近100日間のヒストリカルボラティリティは40%とか50%等になり得ますので、仮にこの値が50%となったときには、当該指数に基づく投資アロケーションは、TOPIX10%、キャッシュ90%となると思います。
上記の記述で、この新しいETFの内容がイメージ出来ましたでしょうか?こういう定性的な情報で、この商品を買うとどんな投資ビークルに投資することになるのか判断するのは、結構、難しいと思います。
たぶん、この投資行動を取ると結果がどうなるのか、どんなときに有利でどんなときに不利な投資行動であるのかを定量的に見ることなしに、このタイプの商品の良しあしを判断することは、困難を極めると思います。
なので、非常に限定的ながら、当方の経験の範囲で書けることを書いてみようと思います。また、個人的にこのタイプの商品について思うことも。
当方、TOPIXやその他世界の株式指数について、上記のボラティリティコントロールの仕組みのパフォーマンスを簡易試算した結果を、伝統的な固定比率のアロケーション投資と比較してみたことがあります。この比較も、フェアに比較する方法についてよく考えると結構難しく、悩みどころなのですが、そのときは以下の通りの比較をしました。
まず、一定間隔のヒストリカルボラティリティ測定により、上記ETFのような総資産のボラティリティを一定率に保つようなデイリーリバランスを施した場合の指数の長期リターンを算出して、この計算で明らかになる、当該投資方法に基づく過去の平均的な株式指数への投資割合を算出します。そして、仮に最初からその比率で固定したアロケーションで株式指数とキャッシュに投資し続けていたらどうなっていたかを算出して、ボラティリティコントロールした投資結果と比較しました。
その結果は、結構特徴のある内容でした。リーマンショック時のような、急激かつ短期間に大きく下落する市場のときは、上記ETF指数のような、ボラティリティコントロールを施した指数の方がよい結果が得られ、逆に日本のバブル崩壊のような、非常に長期にわたってだらだら下げ続ける市場では、スタティックなアロケーションでのリスク資産投資の方が結果が良かったのです。
個人的な、かつかなり限定的な試算結果ですので、興味ある方は自身での計算や調査、考察等をおすすめしますが、上記の結果に対する当方の解釈は、短期的な市場のクラッシュでは、直近の過去のボラティリティ水準が情報として意味を持つが、非常に長期の構造的な下げの最中においては、直近のボラティリティ水準自体がある意味情報として意味を持たないのだと解釈しています。
ここからは、個人的な好き好きも含んだ個人的意見ですが、当方はこのタイプの商品には投資する気はないです。投資行動として、直近下げを見てリスク資産をたたき売り、直近上げでボラティリティが落ち着いてから、またぞろ投資をはじめることになる投資のしくみが、まさに素人っぽい安値売り、高値買い投資行動だということ(この安値売り、高値買い投資行動自体は、レバレッジ型ETFのしくみと本質的には同等だと思います。)もありますが、それとは別に、このしくみにまつわる本源的な考え方がどうにも好きじゃないのです。
こういう投資のアイディア自体が、投資はその投資先の株式会社の営業活動によって得られた株主に対するリターンを得る行為なのだという、本質的なスタート地点の考え方を否定しているように思えるのです。このアイディア自体が、投資は投資先からリターンを得るものではなく、それを売り買いする市場でうまく立ち回ることにより超過リターンを得るものといった発想が根元にあるように思えてなりません。
一般にはあまりこれは言及されることはないですが、長期投資の意味の1つとして、株式投資のリターンは株式市場から得るのではなく、株主配当や自社株買い償却といった手段で、投資先の株式会社から得るためという、重要な意味があると思います。株式投資のリターンを株式市場から得ようとすると、ミスターマーケットの気分でその行為の勝ち負けは定まり、株式市場に出入りする摩擦等によって、半数をはるかに超える人々が、構造的に負け組になります(ベンチマークに負けるということです)。上記のETF商品に投資することによって、圧倒的に負け組になりやすい投資行動の世界での、勝ち組になるための挑戦をすることになるのではないかと思います。ボラティリティコントロールのロジックにより、原理的に不利な世界での勝者になることにベットするのは、私は勘弁願いたいです。
自身の限定的な試算でも、どちらに転ぶかは非常に怪しいベットだと思いますし、株式市場は市場参加者の将来行動によって過去の試算自体も通用しなくなる構造の世界ですし。市場でこのボラティリティコントロール投資をすると、市場での売買が自然に多くなるこの投資行動で証券業界が利益を得るだろうことは確かですが、投資家自身はその分だけ不利になるだろうことも見逃せません。構造上、東証のこの投資指数よりも実際のパフォーマンスが悪くなるだろうことも、やってみるまでもなく明らかなことでしょう。
いずれにせよ、日本のETF商品の世界も、いろいろ考えなければならない時代に入ってきているようですね。
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